2010年11月24日

私たちは何を食べさせられているのか

 食べるってとても大切なことですよね。人間は食べなければ生きていけないし、あたり前ですけれど、私たちの身体は、私たちが食べたものでできている。そして、それを支えてくれるのは他の生きものたちの命。だから、食べることは命のリレー

 そんなことを私たちは誰でも知っているはずですし、だからこそ他の生きものの命も大切にしなければならないことも理解しているはずです。肥沃な大地で育った穀物、太陽をいっぱいに浴びて育った野菜や果物、豊かな自然環境に囲まれて育った家畜。そんな健康的でおいしい食事を、私たち誰もが欲していますし、そんなものを食べている気になっています。

 しかし実際にはそうではないということは、皆さんもう薄々気がついているんではないでしょうか。しかし、これほどまでとは、この映画を見るまでは思わないでしょう。私たちが何を食べているか、いや食べさせられているか、その現実を突き付けてくれる映画が間もなく日本でも公開されます。

 映画の名前はその名も"Food, Inc."、つまり「フード・インク」=「食品株式会社」です。食品は今や農場ではなく、「工場」で工業的に作られているということを象徴したタイトルです。そんな馬鹿なと思われるかもしれませんが、大規模農場に詰め込まれるだけ詰め込まれて飼育された家畜や、近代的農場や温室で作られて大型機械と大型工場で処理、パッケージされている食品は、たしかに工業製品という名前の方が相応しく思えます。



 こうした「工業化」は、効率化という名のもとに行われ、その結果、今やごく少数の大資本が寡占しています。アメリカではわずかに4社が全米の牛肉の8割を支配しているというのですから驚きます。かつては全米で数千とあった屠殺場は、今や13に集約されたそうです。あの広いアメリカで、たったの13です。そして、一時は優良な職場であったのが、今や不法移民による危険な職場になってしまっているのです。

こうなると地域の企業はもちろん、個人農家などもう誰も反抗できません。こうした寡占企業のやり方にNoを言えば、農業を続けることは出来ないからです。それどころではありません。大腸菌で汚染されたハンバーガーで幼子を失った母親がハンバーガーのことを発言しただけで、訴えられるというのです。もう無茶苦茶です。

 日本はさすがにここまで酷くはないと思いますし、それが救いなのですが、このまま日本の農業も自由化が進めば、あっという間にアメリカの大農業企業に取り込まれてしまうかもしれません。しかも、それは単に経済的な問題というわけではないのです。

 なぜなら、これほどの集約化が行われて、必ずしも経済的にメリットがあったというわけではないからです。むしろ食品が安くなったのは、政府からの補助金でトウモロコシや大豆などの穀物が異常に安くなったことが大きいのです。その結果、牛も、豚も、鶏も、まぐさではなくトウモロコシや大豆の濃厚飼料で促成肥育され、また、トウモロコシを原料としてありとあらゆる食品・飲料が格安で作られるようになった部分が大きいのです。

 お店買うハンバーガーの価格が、家で作る食事よりもとてつもなく安く、炭酸飲料の価格がミネラルウォーターよりも安いのは、まさにそうしたカラクリがあってこそなのです。しかし、そんなものを食べ続けていれば、飲み続けていれば、どうなるかはお分かりでしょう。肥満や成人病の治療にかかるコストを考えれば、個人にとってはもちろん、社会全体にとっても決して安くない食事なのです。

 この映画は名著「ファストフードが世界を食いつくす」の著者エリック・シュローサーが共同プロデューサーとして参加しており、当初は「ファストフード..」のドキュメンタリー版ということで企画が始まったそうです。しかし、それをすべて映像化することは難しく、途中で方針変更となったそうですが、それでもその本に出て来るエピソードのいくつかが映像で表現されており、印象的です。

 例えば、ハンバーガーに含まれる大腸菌で、アメリカでは少なくない子どもたちが死亡するという痛ましい事件が過去に何度も起きています。なぜそんなことが起きるのか、「近代的工場」の規模やプロセスを見れば、一目瞭然でしょう。

 しかしもっと衝撃的だったのは、O-157などの悪性の大腸菌は、濃厚飼料を食べさせられた牛の胃の中で発生したという事実です。牛の胃はもともと濃厚飼料を食べるようには出来ていません。まぐさを食べていれば健全に機能する牛の胃でも、濃厚飼料を食べ続けさせるとおかしな菌を作ってしまうというのです。

 いまアメリカの人々に起きていることは、もうその随分前に動物たちに起きていたということなのかもしれません。そしてこのまま放っておけば、日本でも同じことが起きてしまうのでは。そんな背筋の冷たくなる未来が脳裏に浮かんで来ます。

 それでも、この映画には救いも用意されています。そのアメリカでも、いやそういうアメリカだからこそかもしれませんが、昔ながらのやり方、つまり有機農法で安全な食品を、無理のない量だけ作っている人たちがいるということです。

 そして昔ながらのそのやり方は、「近代的工場」のような管理をしなくても、はるかに安全で、そしてはるかにおいしい食品を提供できるということです。価格は激安ではないかもしれませんが、その内容を考えればリーズナブルであり、長い目で見れば決して高くないはずです。

 「システムを変えるチャンスが1日に3回ある」といいます。そう、朝食、昼食、夕食に何を選ぶのか、何を食べるかです。
[食の安全のために私たちができること]
ー労働者や動物に優しい、環境を大事にする企業から買う
ースーパーに行ったら旬の物を買う
ー有機食品を買う
ーラベルを読んで成分を知る
ー地産食品を買う
ー農家の直販で買う
ー家庭菜園で楽しむ(たとえ小さくても)
ー家族みんなで料理を作り、家族そろって食べる
ー直販店でフードスタンプが使えるか確かめる
ー健康な給食を教育委員会に要求する
ー食品安全基準の強化とケヴィン法を議会に求める

 すべての食事で完璧にというわけにはいかないでしょう。それでも、出来るだけまっとうな食品を選び、まっとうな食事をする。その行動が自分と社会と環境の健康のためにとても意味がある、そんなシンプルなことを改めて意識させてくれる映画です。

 私たちは、私たちが食べたものでできています。それと同じように、私たちの社会は、私たちが選んだ方に進んでいくのです。今までも食べ物に気を付けていたつもりですが、これからは値段ではなく、質で選ぼう。そう固く決心させてくれた作品です。

 公開はお正月から、シアター・イメージフォーラムを皮切りに全国で行われる予定だそうです。ぜひ皆さんもご覧ください。詳しい内容や公開スケジュールについては、以下の公式サイトからどうぞ。
「フード・インク」公式サイト

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posted by あだなお。 at 23:18| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ヒント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月23日

各国は名古屋議定書をどう見たのか?

 名古屋議定書が採択されたことやその中身について、日本以外の国はどう見ているのでしょうか? 予定より随分と遅くなってしまいましたが(^^;)、ご紹介しましょう。

 インド第二の英字紙であるThe Hinduは、「名古屋議定書はインドの大勝利」という大きな見出しを掲げました。インドは次のCOP11の開催国であると同時に、生物多様性が特に豊かな世界で17のメガダイバーシティ国家の一つでもあります。そのインドのジャイラム・ラメシュ環境大臣は、派生物と病原体がABSの一部であることが認められたことはインドの大勝利だ語っています。そして世界最大の遺伝子資源の利用国である米国をこの枠組みに組み込むことが、2012年のCOP11の最大の目標だとしています。
出典:"Nagoya Protocol, a big victory for India"(The Hindu 2010/10/31)

 それでは、先進国はどうでしょうか? BBCは採択が行われた直後に配信された記事の中で、「ABSはEUにリードされ、いくつかの重大な譲歩の結果、解決された」と報じています。特に「専門的には派生物と呼ばれる遺伝子資源から得られたすべてもの(anything)をカバーする」ことになったことを強調し、これは以前よりずっと範囲が広がって合意されたと報じています。
出典:"Biodiversity talks end with call for 'urgent' action"(BBC 2010/10/29)

 もっといろいろとバラエティのある意見を紹介しようと思ったのですが、実は名古屋議定書について詳細に報じている海外メディアは案外限られていました。そこで、COP10の間、毎日議論の進展を報じてきた"Earth Negotiations Bulletin"のCOP10 Final号の記事をご紹介しましょう。
 ENBでは、名古屋議定書は「創造的曖昧さの傑作」(“masterpiece in creative ambiguity)であると評し、様々な問題を解決するのではなく、バランスの取れた妥協を提案してどうにでも解釈できる短くて一般的な提案を行ったので、実施が難しいだろうとしています。そして、派生物の問題については、途上国が提案してきたように広い解釈ができる一方、それが利益配分の義務の対象であると明示していないことを懸念しています。時間をかければもっと良い成果は出来たかも知れないが、時間がかかりすぎることで議定書が完成できなくなってしまうリスクを避けたのであろうという分析です。後は暫定委員と各国による実施時の問題になるが、それはかなり困難なものになるであろうと予測しています。

 そのようなわけで、やはりかなり解釈の幅のある議定書と言えそうです。僕なりの解釈は近々ECO JAPANの「COP10の歩き方」に番外編として掲載予定ですので詳しくはそちらをご覧いただきたいと思います。

 そして最後に一言だけ付け加えておきたいのは、一部のメディアが報道したように「(広義の)派生物が含まれない」ということはあり得ないということです。むしろ合意の曖昧さを盾に、資源提供国はこれもあれもみんな利益配分の対象だと今後さらに主張してくる可能性が増えると考えられます。結局は個別交渉でどう合意するか次第ですので無闇に警戒する必要はありませんが、自分たちにとって都合のいい解釈だけをしていると痛い目にあうかもしれません。その点だけは、十分に注意した方が良さそうです。

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posted by あだなお。 at 20:34| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 生物多様性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月03日

名古屋議定書の誤報?

 COP10は先週の金曜日、正確には土曜日の未明にABSに関する名古屋議定書と、2020年に向けての愛知ターゲットという大きな成果を残し、閉幕しました。特に名古屋議定書はこれまでもめにもめてきたもので、直前まで、いや会議が終わるギリギリまで合意がなされなかったので、採択が危ぶまれていました。正直言って、僕もまず採択されないだろうと思っていました。

 その大変な難題であった議定書が出来たのですから、日本は議長国として大きな役割を果たしたと言えるでしょう。日本のメディアはこぞってそのように書きたてました。議定書の中身も日本の報道を見ると、利益配分の適用を植民地時代にまで遡及するという途上国の主張は退け、また、肝心の派生物についても「明確に言及せず」、一方、途上国への資金動員を支援する多国間基金を設けることと、不正を監視する機関を一つ以上設置する、というような表現が見られました。

 以下具体的な例を挙げましょう。

遺伝資源を加工した「派生物」は事実上、議定書の利益配分の対象から除外された。
出典:「COP10:名古屋議定書に合意 議長案、受け入れ 遺伝資源、不正利用を監視」(毎日新聞、2010年10月30日)

生物資源から開発した商品など「派生物」の範囲は、化学合成されたバニラエッセンスなど原材料そのものを含まない商品は対象としない。
出典:「米に条約加盟促す 名古屋議定書、議長案提示」(中日新聞、2010年10月30日)

 しかし、これが本当だとすると、途上国はなんでこんな不利な議定書に合意したのでしょうか? 一般的な派生物を含まなければ、ほとんど実質的な利益還元は出来なくなってしまいます。

 ところが、日経の報道は少し雰囲気が違います。
途上国などが求めていた、生物が持つ成分を化学合成などで改良した「派生物」についても原産国に利益を配分する余地を残した。
出典:「生物の産業利用に国際ルール 名古屋議定書を採択」(日本経済新聞、2010年10月30日)

 さらに、産経、朝日、時事などはまったく反対の印象です。
利益配分の対象については、植物や微生物などをもとに企業が開発した「派生物」も含まれると、途上国の主張が取り入れられているが、個別の契約の中で実施するため先進国も受け入れやすい内容になっている。
出典:「【COP10】「名古屋議定書」合意 「愛知ターゲット」も」(MSN産経ニュース、2010年10月30日)

利益配分の対象範囲は、研究開発で資源を改良した製品(派生品)の一部も含むことができるとした上で、契約時に個別判断するとした。
出典:「生きもの会議、名古屋議定書採択 遺伝資源に国際ルール」(asahi.com、2010年10月30日)

途上国側の主張に沿って利益還元の対象を遺伝資源の「派生物」に拡大することなどを盛り込んだ
出典:「「名古屋議定書」を採択=対立乗り越え利益配分ルール−COP10 (時事通信)」(時事通信社、2010年10月30日)http://news.www.infoseek.co.jp/politics/story/101030jijiX113/

 うーむ、果たしてどれが正しいのでしょうか? ちなみに日本政府代表団の「結果概要」では、「派生物、遡及適用、病原体等いくつかの論点での資源提供国と利用国の意見対立が続いたことを踏まえて、最終日に我が国が議長国としての議長案を各締約国に提示し、同案が「名古屋議定書」として採択された。」とあるだけで、最終的にはどういう結論になったかはわかりません(^^;) 

 こういうときには原文にあたるのが一番なのですが、決議案L.43 ver.1を見てみると、こんなややこしいことが書いてあります。ちょっと長いですが、引用しますね。
Article 2
USE OF TERMS
The terms defined in Article 2 of the Convention shall apply to this Protocol. In addition, for the purposes of this Protocol:
(a) “Conference of the Parties” means the Conference of the Parties to the Convention;
(b) “Convention” means the Convention on Biological Diversity;
(c) “Utilization of genetic resources” means to conduct research and development on the genetic and/or biochemical composition of genetic material, including through the application of biotechnology as defined in Article 2 of the Convention.
(d) “Biotechnology” as defined in Article 2 of the Convention means any technological application that uses biological systems, living organisms, or derivatives thereof, to make or modify products or processes for specific use.
(e) “Derivative” means a naturally occurring biochemical compound resulting from the genetic expression or metabolism of biological or genetic resources, even if it does not contain functional units of heredity.

 これを読むと、「遺伝子資源の利用」の中にはいわゆる「派生物」(薬品等)が含まれているようです。ただし、このプロトコルの中で使われるderivative(派生物)という言葉には、そうした薬品等は含まれず、生物が自然に作り出したものしか含まないようであることがちょっとややこしいのですが...

 というわけで、このArticle 2を素直に読めば、今回の議定書はあらゆる派生物を含むことになるようです。なるほどそうであれば、途上国がこの議定書に合意したのも頷けます。どうもこれは一部の報道機関の誤報と言っていいのではないでしょうか。

 日本のメディアには、「派生物が含まれた」ことについてその影響を含めて詳しく論評しているところはあまりないようですので、それでは海外はどのように受け止めているのでしょうか? 続きは明日ご紹介したいと思います。

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posted by あだなお。 at 02:10| 東京 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | 生物多様性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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