2008年08月14日

普請の力

 地方の建設業の方とCSRについて話をしていたときのことです、その方の口からボソッとこんな言葉が出て来ました「私たちはもともと普請から始まった仕事ですから」。グッと来ました。そういう意識がちゃんと残っているのですね。

 「普請(ふしん)」とは、今では建築や土木工事のことを指す用語ですが、もともとは「普く(あまねく)請う(こう)とも読み広く平等に奉仕(資金・労力・資金の提供)を願う事であり、社会基盤を地域住民で作り維持していく事」でした。つまり、普請とは「互助活動や相互扶助や自治としての建設(修繕、模様替も含まれる)の為の労力や資金の提供を求める事」であり、「建設と言う言葉自体が明治時代に外来語を翻訳した時に出来た和製熟語でありそれ以前は普請と言った」のです。
■出典:「普請」(Wikipedia)

 家を立てる「家普請」以外にも、屋根を葺き替える「屋根普請(萱普請)」、用水路や溝(どぶ)の清掃をする「溝普請」、田んぼまわりの設備を整備する「田普請」など様々な普請があり、無償の互助活動、近所付き合いの延長で、自分たちの住む地域を整備してきたのです。

 それが次第に、労働力を提供できない者は費用だけを提供したり、町人や大店(おおだな)が費用を負担し、専門職が実際の作業をするようにと、次第に専門家、分業化が進みました。

 ですから今では職業的な土木工事や建築も「普請」なのですが、もともとの由来は地域の住民どおしの相互扶助であり、だから自分たちの地域の役に立つことを自主的にするのは当り前。そういう気持ちは今でも持っていますよ。冒頭の方はそうおっしゃいたかったのだと思います。まさにCSRです。

 最近はまた、かつての「道普請」、つまり、自分たちの地域の道を自分たち自身で整備しようという動きも出来ています。そんな例の一つ、長野県栄村の事例が、日本自然保護協会のWebで紹介されていました。
「国の補助事業というのは一律的ですからね、事業基準が実情に合致するとは限りません。村としてはそんなに立派でなくていいんだけれど、それに合わなければ補助金が出ない。栄村のような山間地域で、すべて国の基準で圃場整備をやるとものすごく高くつく。事業のあとに村や農家には多額の借金が残ります。その結果、農家はもうやりたくないとなりました。で、高齢化はすすむし田んぼは荒れ出すしで、これはもう自分たちのソロバンに見合った方法でやるしかない、となったんです」
■出典:「現代版「田直し」「道普請」●長野県栄村」(日本自然保護協会)

 自分たちで労働提供するからだけではなく、必要以上の高規格にしないので、結局は経済的負担も少なくて済むのです。国庫補助を使った国の事業とすると10アールあたり75万円も負担しなければいけなかったのが、自分たちの手による「田直し」であれば、20万円で済むといいます。もちろん必要十分なスペックは満たしていますから、何も問題はありません。栄村では田圃だけでなく、地域の道も自分たちで整備する、つまり「道普請」もするようになったそうです。

 自分たちの手で、自分たちの賄える範囲で、自分たちの地域を整備、維持する。それが可能なのだと示した栄村はとても素晴らしい事例です。しかも、このやり方なら経済的にも持続可能です。

 予算がない、人がいない、資源がない、というのではなく、自分たちの持っているものでなんとかする。自分たちの力と知恵でなんとかする。それが、「普請」の考え方です。

 そして今や私たちが持っているのは、地域住民の個人の力だけではありません。企業の強力な力もあるのです。企業がそれぞれの地域のニーズに真剣に取り組むようになったとき、行政に任せっきりではとても出来ない素晴らしい社会が、リーズナブルなコストで実現できるはずです。

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posted by あだなお。 at 23:59| 東京 台風| Comment(2) | TrackBack(0) | ヒント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あだなおさま、こんにちは。
わたしは、九州にすんでますが、田舎の方に行くと、河原や田んぼにたくさん石垣があるんですね。それは、昔の農民のみなさんが作ったものなんですが、あるとき専門家が見に来て「素晴らしい石垣だ」と感心して帰ったそうです。では、今のひとが、石垣を作れるかっていったら、難しいと思うのですが、あだなおさんのいうように、地域の公共事業のあり方を変えて企業や皆の力をあわせて、新しい地域普請の形をみつけたいですよね。これまでは、何事も、国からのトップダウンだったけど、これからは、地方から国づくりをボトムアップしていく時代じゃないでしょうか?
Posted by みかん at 2008年09月05日 13:00
みかんさん

コメントをありがとうございます。

そうです、トップダウンや全国一律の時代はもう終わりです。自分たちの手で、自分たちの身の丈やニーズにあった政治を行う時代だと思います。そして、それが本当の自治でしょう。

素晴らしい石垣を、次の世代にぜひ残したいですね。
Posted by あだなお。 at 2008年09月07日 22:25
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