2008年09月11日

足をすくわれた巨人

 生物多様性へ大きな影響を与えている業種に鉱山会社があります。鉱石を掘り起こすために土地を大規模に改変し、また鉱石やその残渣に含まれる重金属、あるいは精製に使う化学薬品が周囲の生態系に大きな環境負荷を与えるからです。

 したがって鉱山会社は、環境を破壊しているとして、長年にわたって環境NGOなどから非難されて来ました。そうした圧力の中で、90年代後半からは環境への配慮を急速に進める鉱山会社も出てきています。

 その代表格が世界第二の鉱山会社リオ・ティント(Rio Tinto)だったのですが... 今日ちょっとびっくりするニュースが流れました。
 ノルウェー政府の石油収入を運用するノルウェー政府年金基金は、保有していた英豪資源大手リオ・ティントの株式約8億5000万ドル(約910億円)を売却したと発表した。同社の関連会社が運営するインドネシアの鉱山事業について「環境を破壊し倫理上問題がある」と判断し、運用対象から外した。
出典:「ノルウェー政府年金基金、英豪資源大手株売却 「環境を破壊」」(NIKKEI NET、2009年9月11日)

 ノルウェー政府年金基金は環境や社会面で問題がある企業には投資しない、いわゆるネガティブスクリーニングの投資基準を持ち、社会的責任投資を行っています。
《参考リンク》
■"Ethical principles underpinning the investment activities of Folketrygdfondet"(Folketrygdfondet)

 リオ・ティントは世界中の鉱山会社の中でおそらくもっとは環境配慮に力を入れている会社の一つですので、何でこんなことになってしまったのかと思ったら... どうも同社が米国のフリーポート社と共同で操業しているインドネシアのグラスバーグ鉱山を問題視したようです。たしかにこの鉱山は、尾鉱(tailing)を河川に垂れ流したり、反対派の先住民を弾圧したり、いろいろと問題を起こしているところです。
《参考リンク》
■"Norway's pension fund blacklists Rio Tinto over environment"(AFP)
■「インドネシアにみる採掘産業のCSR 〜フリーポートとニューモント」(環境goo)

 以上の情報から判断すると、リオ・ティント本体は鉱山会社のリーダーとしてかなり頑張っていたものの、世界的な鉱山会社の再編成の中で、事業パートナー選びで足をすくわれたということのようです。

 ところで政府系ファンド、いわゆるソブリンウェルスファンドは、運用金額の大きさ、そして当然ながらその大きな影響力から、最近何かと話題になりますね。ノルウェー政府年金基金はその中でも有数の規模ですが、経済的リターンだけでなく、ネガティブスクリーニングと株主行動を通じて、企業に積極的に働きかけていることも特徴です。

 今回もリオ・ティントに対して環境上の懸念を表明する手紙を出したものの、満足できる回答を得られなかったため、保有するリオ・ティント株すべて、約910億円分を売却したのです。リオ・ティントに対してはもちろん、他の企業に対しても強力なメッセージになったはずです。

 一方、同ファンドはアグロビジネスの巨人、米国のモンサント社(「TV番組2題」参照)の事業についてもインドで児童労働と関係があることに対して懸念していますが、同社の株をあえて保有し続けています。これは、同ファンドの株主としての声が、モンサント社の行動を変えつつあると手応えを感じており、株を保有しつづけることの方に意味があると考えているからだそうです。

 上記の記事によれば、ノルウェーの金融相Kristin Halvorsen氏は「ノルウェー国民の貯金が、多くの貧しい子どもたちの生活を改善することを可能にしたのだ」とテレビのニュースで述べたそうですが、ソブリンファンドの規模の力をきわめて積極的に活用していることがわかります。

 ソブリンファンドについてはもちろん悪い影響力も大きくなり得ますし、善かれと思っても、独り善がりだったり、価値観の押しつけになることもあるでしょう。しかしこれはひょっとすると、これからの「外交戦術」の一つにもなるかもしれませんね。ちなみに、日本政府は莫大な外貨準備高を有しますが、まだソブリンファンドは設立していません。

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posted by あだなお。 at 23:59| 東京 ☁| Comment(2) | TrackBack(2) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
APECでCSRに焦点を当てた事業を二つ実施してきましたが、来年開始される鉱業におけるCSRという案件が2件ほど提案されています。生産国はもちろん、消費国からも、環境問題や地域社会への影響を直接、間接に影響を与える(べき)分野なので、プロジェクトをサポートしています。APECでは、引き続きCSRに対する関心が高く、プロジェクトの進展を見てゆきたいと思います。
Posted by いなば at 2008年09月16日 17:00
いなばさん

コメントありがとうございます。
そうですか、APECでは鉱業のCSRを取り上げるのですね。

鉱業は影響も大きいと同時に、熱心な活動も多いセクターです。調査から他の産業にも役立つ示唆が得られることを期待したいですね。
Posted by あだなお。 at 2008年09月16日 23:40
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ノルウェー政府系基金、環境破壊を理由に株を売却
Excerpt: ちょっと前にこんなニュースがありました。 ノルウェー政府の石油収入を運用するノルウェー政府年金基金は、保有していた英豪資源大手リオ・ティントの株式約8億5000万ドル(約910億円)を売却したと発表し..
Weblog: グッドコンシューマースタイル
Tracked: 2008-09-27 21:05

ノルウェーの政府系ファンド、リオ・ティント社の株式を売却
Excerpt: ノルウェー政府が原油の輸出によって稼いだ資金を運用する政府系ファンド「ノルウェー政府年金基金」が、保有していた資源大手リオ・ティン...
Weblog: 経済や投資に関するなぐり書きブログ
Tracked: 2008-10-05 21:53
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