著者本人が投資銀行家になることに憧れ、ウォール街に渡った方ですから、なぜ同じ立場の方が「ウォール街の自爆」などという本を書いたのかと最初はちょっと疑問だったのですが... 神谷氏からすれば、そして多くのまっとうな銀行家からすれば、近年のウォール街の強欲さと傲慢さはまったく異常で、鼻持ちならず、無責任で狡賢い存在なのだと。金融ビッグバンの結果、投資銀行が再編されていく中、その業務の中味が恐ろしく変質してしまったということのようです。
本書ではまた、今回の世界同時不況だけでなく、様々な場面で日本人や日本企業がいかにカモにされて来たかということも、赤裸々に語られます。にも関わらず、「グローバル・スタンダード」を褒めちぎり、追随し、東京を「国際金融都市」にしようとした政治家や一部企業人など、笑止千万です。
それだけではありません。ウォール街流のやり方に追従したことで、あるいはアメリカに自らの黒字を貸し付け過剰な流動性をもたらしたことで、日本もこの世界同時不況の片棒を担いでいたのだとしたら... いつの間にか私たちが加害者にもなっていたということで、よりショックを感じます。
それでは私たちはどうしたら良いのか? 本書ではあまり具体的とは言えないまでも、下村治博士の「ゼロ成長論」をベースに、いくつかの方向性を示しています。
すなわち、私たちはもはや(数字の)拡大を追っかけることはできない。ゼロ成長を現実のものとして受け止め、身の丈にあった新しい生き方を見つける必要があるということです。もちろんそのためには、ゼロ成長の中での目標とする新たな指標を見つけることや、新たな成功の定義も必要(p.187)だとも言っています。
今までのビジネスの常識は通じてなくなりますが、それでもその先にあるいのは決して暗い社会ではないと思います。著者も言うように、むしろ日本人が日本人たる心を取り戻し、再び日本人らしく生き、日本の伝統文化を再興する(p.193)チャンスとも言えます。
私たちはお金なしでやっていくことはできませんが、社会や生活がお金に支配されるようであれば、主客転倒です。持続不可能な経済をどう持続可能なものに直すか。今回の失敗から学ぶべきことは多そうです。
そして金融機関にも、産業を支援するという本来の役回りに、早く戻ってもらうことを強く願いますし、それは著者の願いでもあるでしょう。
今日もお読みいただき、ありがとうございます。
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