2009年05月12日

資本主義に再考を迫るTEEB

 昨日発行したメルマガにも書いたのですが、TEEB(生態系と生物多様性の経済学)にはいくつか興味深い箴言があります。

 既にメルマガでご紹介したのは、まずこれです。
我々は現在、地図にない荒れ狂う未知の海を、古く欠陥のある経済の羅針盤を使って航海しているようなものだ。
 なぜかと言えば、
我々の経済の羅針盤は欠陥品である。なぜなら、国家、企業、個人のすべてのレベルで、自然という外部不経済の一切を勘定に入れていないからである。

 しかしこの外部不経済の問題は、今はじめて気がついたものではありません。環境問題を語るときには繰り返し問題とされて来たことです。そして経済オンチの僕は知らなかったのですが、そもそもアダム・スミスの「国富論」の中でも、このことは以下のように警告されているとのことです。
非常に有益なものがすべて高い価値を与えられているわけではない。水がそのよい例である。一方で、高い価値のあるものがすべて非常に有益なわけではない。ダイヤモンドがその良い例である。

 つまり、こうした経済学あるいは私たちの価値体系こそが問題だというわけです。
自然の価値査定の欠如が、我々が現在悟りつつあるように、生態系の劣化と生物多様性の損失の根本的な原因となっている。

 この現状に対して、TEEBは果敢にもGDPに代わる新たな、そしてより本質的な経済指標を作ることを提案しています。これは持続可能性の議論においてしばしば課題にされていることであり、このこと自体は特段目新しくないのですが、今回それに注目するのは以下の二つの点においてです。

 すなわち、TEEBは生物多様性条約(CBD)の裏付けがある公式のレポートとは言えなくとも、2007年のG8環境相会議の合意であるポツダム・イニシアティブを受けて、ドイツ政府が支援して進めているプロジェクトです。その中で「GDP再考」が明示され、またその検討結果は来年のCOP10で公表されます。もはや「環境保護論者」や「持続可能性オタク」(笑)の戯言ではなく、世界のメインストリームがGDPという神話を本気で考え直す気運が高まっていると言えるのではないでしょうか。

 TEEBの公表後、昨今の金融に過度に依存した経済の虚構が露呈し、世界経済は根本的な見直しを迫れています。このことは、TEEBの提言の意味をさらに強めると思います。

 そしてもう一つは、GDPがいかに役に立たないかを端的に示す、以下の例示です。この一文は、必ず多くの人の目を覚ますものと期待します。
ハリケーン・カトリーナやアジアの津波といった大災害が、人間の悲劇や財産の損失にもかかわらず、GDPにおいては増大として表された。

 以前サスラボでTEEBのことを紹介した際には(「生態系版スターン・レビュー」)、生物多様性や生態系の経済影響に関する結果にフォーカスしました。それが重要なのは今でも同じですが、今日紹介したような文脈に注目しながらTEEBを読み返すと、きわめて奥が深いレポートであることがわかるでしょう。

 なお、TEEBはその後、日本語版が出されており、以下からPDFがダウンロード可能です。
■「生態系と生物多様性の経済学 中間報告」(住友信託銀行)

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posted by あだなお。 at 12:57| 東京 🌁| Comment(4) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あだなおさん、こんにちは。相変わらず鋭い視点とわかりやすいご説明、ありがとうございます。あだなおさんが「経済オンチ」なんて、(本当ではないとは思いつつも)なんかホッとしました(笑)。私自身異常なほどの経済オンチですが、それでもこの考え方はよくわかります。
Ponting のA Green History of the World の有名な文章も、最近あらためて見直して「ほほ〜う」と思いました。("The crucial defect (of capitalism) is that the earth’s resources are treated as capital – a set of assets to be turned into a source of profit. Trees, wildlife, minerals, water and soil are treated as commodities to be sold or developed. More important, their price is simply the cost of extracting them and turning them into marketable commodities. Yet this view overlooks the basic truth that the resources of the earth are not just scarce, they are finite”.というアレです。)
市場価値の枠組みでものを考える人たちに価値観の転換を考えてもらうには、我々「オタク」も、経済的な視点を身につけて説得力をつける必要があるんですね〜。
Posted by もみい at 2009年05月12日 14:29
もみいさん

詳しいコメントをありがとうございます!
経済オンチであるのは本当なのですが、「素人が直感的に理解できない、納得できないのは、そもそもオカシイのではないか?」と思っていますので(笑)、無理やり単純化して理解すべく努力しています。

で、外部不経済ってなんだかねぇ。本当に、地球の資源が「有限である」ということを、きちんと反映してもらいたいですよね。

ところで、環境省のガイドラインもパブコメが始まりました。こちらもご感想をお聞かせくださいね。
Posted by あだなお。 at 2009年05月13日 23:18
 市場経済が環境問題を起こしているという意見は端的に言って誤りです。市場経済は利益だけを追求しているように見えますし、そこ携わっている人々は実際に利益を第一に追及しているのですが、実は「見えざる手」によって「社会の最も基本的な課題」を市場経済は解決しているのです。環境問題も「社会の最も基本的な課題」の一種であり、市場経済によって自然に解決することができるものです。
 では「社会の最も基本的な課題」とは何か、「見えざる手」とはどのようなものなのか。それをここで簡単に説明することはできません。私のホームページに書いた論文を読んでみてください。世の中が変わって見えるようになると思います。
http://www.kjps.net/user/khiroshi/baka/baka-index.html
Posted by khiroshi at 2009年05月16日 13:50
khiroshiさん

はじめまして、こんにちは。
コメントありがとうございました。

ここは議論をする場所ではありませんが、多様な意見は歓迎します。
これからもよろしくお願いします。
Posted by あだなお。 at 2009年06月02日 00:47
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