ABSとは、Access and Beneft Sharingの略で、 日本語では「遺伝資源へのアクセスとその利用から生じる利益の公正・公平な配分」などと訳されます。え、余計訳がわからなくなりました?(^^;)
生物の中には薬の原料になるような物質を作るものがあり、その物質を作る遺伝子や、その生物の遺伝子全体が、利用価値のある遺伝素材、すなわち遺伝資源として産業界から注目されています。
製薬会社などは、生物多様性の豊かな途上地域の原産国に多く存在すると考えられるこうした遺伝資源にいかにアクセスするかに興味があるわけです。そして見事そうした遺伝資源から新薬が開発できれば、莫大な利益を得ることができるわけですが.... 問題はその利益をどう分配するかです。
その利益が得られたのは、その遺伝資源があればこそであり、原産国に十分な利益が還元されるべきであると考えるのが原産国の立場。一方、企業やその企業の属する先進国からすると、遺伝資源から新薬などを開発するのには莫大な費用と時間がかかる。そのようにして開発された薬にこそ価値があり、これは知的財産なのだから、利益は開発した企業が受け取るのが当然。議論は平行線です。
実は、生物多様性条約の3つの目的の一つが「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分」であり、この問題は条約が出来る前からの大きな課題でした。生物多様性条約が出来てからもABSの実施方法をルール化するための議論が継続され、2002年のCOP6では「ボン・ガイドライン」が採択されています。
しかし問題は、これは法的な拘束力を持たないガイドラインに過ぎないということです。先進国はこれで十分だと主張するのに対して、原産国であることが多い途上国はこれでは不十分であり、法的拘束力を持つプロトコルが必要だと譲りません。COP10では「名古屋プロトコル」が出来ればいいのですが、議論は膠着状態と言っていいでしょう。
こんなことを書く気になったのは、一昨日、A SEED JAPANのセミナーに出て、ECOROPAのクリスティーナ・ヴァイツゼッカーさんとお話しをしたからです。最初にお会いしたときに、「どこかで見た顔だなぁ〜」と思ったもののすぐには思いだせなかったのですが、しばらくしてから、去年の春にドイツであった国際会議でお会いしていたことを思い出しました。後から「もしや」と尋ねたら、「私もどこかで見た顔だと... でも思い出せなかった」と(笑)。
それはともかく、彼女が一語一語をゆっくりと説き伏せるように、なぜ名古屋プロトコルが必要なのか、ボンでは失敗したが、名古屋では失敗できないのだと、切々と語りかける姿は実に印象的でした。語り口は静かだけれど、実に熱いのです。
歴史を振り返れば、植民地時代の頃から、先進国の人間は途上国の遺伝資源を無断で掠め取って来たのです。彼女のプレゼンテーションの最後のスライドには、こんな言葉がありました。(うろ覚えですが...)「自分たちの美しい庭に、何度も何度も他所からやって来る人たちがおり、そこに実るおいしい果実を代金も払わずに取っていってしまいう。果たしてそれが公正と言えるのか。お互いに信頼はできるのか。」
「名古屋プロトコルができる可能性はどのぐらいなのか?」という質問に対して、クリスティーナさんは「それはわからない。でも私たちは出来る限りの準備を十分に重ね、最善の努力をし、そして最後にほんのちょっとの幸運が訪れることを諦めてはいけない」と答えていました。
正直に言えば、僕はかなり困難な状況だと思います。日本はCOP9では、アメリカの片棒をかつぐような発言をして途上国から非難を受けています。COP10では議長国として公平に議論を進め、あるいは途上国に歩み寄る姿勢を示し、議論をリードすることができるのでしょうか? ぜひ、そのような態度を取り、「さすがは議長国」という国際的な評価を受けたいものです。
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