2010年05月31日

NGOを舐めてはいけません

 サスラボでも取り上げた、ネスレに対するグリンピースのネガティブ・キャンペーンですが、グリンピースの勝利に終わりました。もしかしたら、「また過激なNGOが、過激なキャンペーンをしている」と眉をひそめた方もいらっしゃったかもしれませんが、ネスレはグリンピースの要求を完全に受け入れたのです。

 グリンピースのサイトでは、以下のようにその成果が発表されています。
2ヵ月で、
34 カ国から、
30万通以上のメッセージ。
150万回視聴されたビデオ。
↓↓ その結果 ↓↓
5月17日、 世界最大の食品・飲料会社ネスレ本社は、熱帯雨林を破壊してつくられた製品の使用中止を発表しました!

しかも、消費者と向き合う企業としてはもっとも包括的なパーム油などの調達指針を掲げ、熱帯雨林とオランウータンたちの保護をすすめる画期的な方針を打ち出しました。
出典:「ネスレ本社は、熱帯雨林を破壊してつくられた製品の使用中止を発表しました!」(グリンピース・ジャパン)

 今回のキャンペーンのためにグリンピースが作った映像は非常に効果的なものでした。文字で表現しただけであれば、これほどの大きな反響はなかったかもしれません。わかりやすく、そして誰しもこれはマズイ!と思うような映像にすることで、多くの消費者から賛同を得、その声がネスレに届いたのだと思います。映像が150万回視聴されたというのもさることながら、映像を見た5人に1人がネスレにメッセージを送ったという驚異的な割合が、映像のインパクトの大きさを物語っています。

 さすがにこれだけの反応があると、ネスレとしても対応せざるを得ないでしょう。メッセージを送って来た50万人の消費者の背景には、その何倍もの同じ思いの消費者がいるはずです。シナール・マス社からのパームオイルの購入を止めただけではなく、さらにそれを回避するような調達も止めました。ネスレのサプライヤーであるカーギル社も、同様のコミットメントをしたのです。

 そして、TFT(The Forest Trust)などのNGOと協力しながら、責任ある調達を進めていくことを発表しています。現在は使用するパーム油の18%がCSPO(認証された持続可能なパーム油)ですが、2011年にはこれを50%にし、2015年には100%にするとしています。

 さらにはパーム油だけではなく、包装に使用する紙についても、同じシナール・マス グループのAPP社の製品は購入しないことを宣言しています。APP社もやはり、熱帯林を破壊してパルプを生産していると非難されているからです。

 以上のことについては、ネスレ本社からは以下のような詳しい声明が発表されています。ただ残念なのは、日本のネスレのサイトには、一切そうした説明がないことです。日本ではあまり問題にならなかったということなのかもしれませんが...
■"Statement on deforestation and palm oil"(Nestle)

 今回のネスレの一連の対応は非常に素早いもので、ネスレを動かしたグリンピースのキャンペーンは大成功だったと言えます。しかし、さらに注目したいのは、グリンピースのキャンペーンが非常に用意周到であったということです。

 というのは、ネスレはパーム油の問題について、これまでまったく何もしてこなかったわけではありません。既にある程度CSPOの利用も始めていました。また、パーム油はネスレにとって主要な原材料ではなく、さらには、シナール・マス社からの購入量も全体の中で大きいものではありませんでした。つまり、ネスレが本気で変えようと思えればすぐにでも変えられる部分を、グリンピースは突いたのです。

 そして4月15日のネスレの株主総会をも意識していたのではないかと思えます。ネスレの経営層が、株主総会できちんと回答しなければいけないことを見越して、グズグズとしている時間を与えないようにキャンペーンのタイミングを設定したいのではないでしょうか。

 つまり、どういう時に、どういう行動を促せば企業が反応せざるを得ないか、そのことをきちんと計算した上で戦略的にキャンペーンをしかけたであろうということです。もちろん、どのようにアピールすれば消費者が反応するかも、きちんと計算しているはずです。

 さらにはこのように成功しやすいキャンペーンを行い、見事にそれを成功させることで、グリンピースは自分たちの存在感や影響力をアピールすることにも成功したと言えます。世界中の注目を集めて、手堅い勝負を仕掛けたのです。

 今回のキャンペーンではグリンピースの手腕の鮮やかさが目立ちましたが、実はこれはWWFの成功でもあるのです。ネスレが2015年までに100%の切り替えることを約束したCSPOは、WWFがユニリーバなどと始めたRSPO(持続可能なパームオイルの円卓会議)が作った規格です。

 既にユニリーバなど世界の19社が2015年までにCSPOに完全に切り替えることを宣言していますが、今回ネスレが20番目の企業となったわけです。RSPOというフレームワークを作ることにより、WWFは世界の先進的企業を次々に変えることに成功しているのです。

 このように、海外のNGOは非常に戦略的です。そして、企業にも、社会にも、大きな影響力を持っています。この点は日本とは随分と事情が異なります。日本の企業はそのことを見落としてはいけないでしょう。

 これまでのところ、日本の消費者は欧州の消費者のように熱帯林の破壊や生物多様性の問題には反応して来ませんでした。消費者を動かすような、戦略的なNGOもあまり存在していないのかもしれません。しかし、今年は生物多様性条約のCOP10があります。世界の目が日本に注目するのです。そこで、海外のNGOが日本の企業に注目し、働きかける可能性は十分にあるでしょう。日本企業を動かす絶好のチャンスだからです。

 日本ではNGOというと、企業や行政などに比べて、まだまだ発言権がないように思います。中には、「NGOの言うことなんて」まったく取り合おうとしない企業の方や、「NGOは何を言うかわからない」と変に避ける方も見かけます。しかし、企業とは少し視点は違うかもしれませんが、専門性を持ちながら、現実的なソリューションを考え、提言し、実行できるNGOも、たくさん存在します。そういうNGOを見下すのはとんでもないことですし、第一、企業にとってももったいないことです。むしろ、同じ課題に取り組むにあたって、自分たちとは異なる視点を提供してくれる存在としてNGOを活用することこそ、これからの企業にとって必要なことだと思います。

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posted by あだなお。 at 12:18| 東京 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 生物多様性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あだなおさん、こんばんは。ごぶさたしてます。
ホントに、多くの NGO にはとても能力の高い、優れた人格と志の方々が集まっていますよね。
これは日本でも海外でも同じですが、日本ではまだまだそれが評価されないのが悲しいところです。
あだなおさんがおっしゃるように、企業の方々にとっても十二分に役に立つリソースなのに。
NGO の応援、これからもしていきましょう〜。
Posted by もみい at 2010年07月27日 01:39
この件は、NGOが企業に働きかけた成功事例として広く紹介されていますね。私が知りたいのは、シナール・マス社はインドネシアでの森林破壊→プランテーションを辞めたのでしょうか。ここが問題の本質だと思うので伺っています。
Posted by katsutoshi at 2013年05月10日 18:26
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