2006年04月16日

「インターネット的」

 「インターネット的」 糸井重里 PHP新書 660円+税

 糸井重里さんが1998年に「放送開始」したホームページの「ほぼ日刊イトイ新聞」は、有名人によるブログの走りかもしれません。しかし、'98年と言えばついこの間のように思えるのに、既に7年が経過し、その頃はまだブログという言葉がなかったのですから... うーん、時の流れは恐ろしい。

 この本には、糸井さんが「ほぼ日」を始めようと思ってから、実際に始めて気がついたことなどが、「ほぼ日」のような平易な文章で綴ってあるのですが、その緩く流れる言葉に騙されてはいけません。インターネットの本質を見事に見抜いています。

 「インターネット的」であるとはどういうことかと言えば、糸井さんは次の三つの鍵を挙げています。リンク、シェア、フラットです。しかしまぁ、これは比較的よく言われていることなので、ここでは詳しくは書きません。

 おもしろいなと思ったのは、その結果として糸井さんがインターネット的の特徴として挙げていることの方です。まずは、まるごと渡せること。つまり、テレビや雑誌のように入れ物の制限がないので、編集なしのすべてを渡せるということです。また、まだ自分の中でも熟していない思いを出せること。その思いが、インターネットの中で結晶化していくのだと言います。だから、完成形など待たずに、今あるものをまずは出し切る、そこから受け手の力に手助けされて、素晴らしいものになるかもしれないのです。

 つまり、推敲され、編集された完成形の情報を渡すのではなく、むしろ料理の途中を見せることで、情報の受け手にも、料理に参加してもらおうというスタンスでしょうか。もちろんこれまでも一緒に仕事をする仲間とはこのような形で作業をすることはありましたが、無限に連なるリンクの中で、情報をシェアし、フラットな関係の中でそれを進めるのですから、何が出て来るか予想すらつきませんね。

 そしてこうしたインターネット的な世界を支える原理として、糸井さんは信頼を挙げています。その根拠は、社会心理学者の山崎敏男さんの「相手をだましたり裏切ったりするプレイヤーよりも、正直なプレイヤーの方が、大きな成果を得る」という実験結果です。つまり、「正直は最大の戦略である」ということですね。

 この実験結果は、「正直者がバカを見ない社会」を理想と考えてきた糸井さんを大きく勇気づけましたし、実はこのことは既に実際の社会の中で証明されているのではないかと言います。つまり、正直でないことをした企業は社会からの信頼を失っているし、これからの社会は、企業の「考え方やセンス、モラル、理想」などに消費者が賛同するという形でビジネスが行われていくのではないかと。

 なぜかと言えば、商品やサービスが均一化してくれば、人々はその企業が実現したい社会像に、選挙の投票をするように買い物をするようになるのだと。だから、「企業が、広報活動や商品を媒体にして、自分たちの理念・理想を伝えることは、その企業の存続に関わるようになっていきます」と言うのです。これはまさしくCSRで議論されていることですが、それをCSRなんていう言葉はおそらくまったく意識していないだろう糸井さんの口から出てくるのがびっくりです。

 しかもその後には、「その会社が好きだから株を買う」というSRI(社会的責任投資)的な動きまで予測しています。慧眼と言うより他にありません。

 そして、こうしてどんどんインターネット的になっていく社会、その先に私たちを待ち受けているものは... 詳しい議論は本書を読んでいただくことにして、私たちの社会が本当に豊かになれるためには、一人ひとりがクリエイティブになるためには、そんなヒントが満載です。

 技術や仕組みとしてインターネットではなく、インターネットという技術が作り出した新しい環境、可能性としての「インターネット的」社会を、自分の視線にこだわって解きほぐした本書は、これからの社会のあり方を考える上でとても参考になると思います。そして何より、糸井さんがたどりついたこれからの企業のあり方が、信頼を基盤とするものであったことが、これからの社会に希望を与えてくれます。

今日も読んでくださって、ありがとうございました。
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posted by あだなお。 at 12:51| 東京 ☁| Comment(2) | TrackBack(3) | 本・映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
先日は、私のブログにコメントを有難うございました。
稚拙な文章でお恥ずかしい限りではございましたが・・・。

さて、今日のこの本、ずいぶん前に読み始めてからなかなか読み進まなくて・・・まだ最初の方で止まっているのですが・・・。
ただ、この本で述べられていることの中に、先日の企業のCMの話と通じるエッセンスがあるように感じていました。
今日のこのエントリーを読んで、またその考えが強まりました。
「一人一人が情報の受け手ではなく発信源になったとき、人間の存在自体がシフトする可能性を秘めている」
これは、私が昔師と仰いでいた人の言葉の断片です。
この言葉を耳にしたのは、もうかれこれ10年前の話ですが、最近「これかもしれない」と思うようになりました。
だんだんなんだかオカルトチックになってきてしまったんで、この辺で止めにしておきますね。
また時々このブログにお邪魔させていただきますね。
大切な何かを思い出すために・・・。
Posted by pig at 2006年04月17日 16:45
pigさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

そうですよね、ブログもそうですけれど、一人ひとりが情報の発信元になりつつあるというのは、ものすごい変化だと思います。

そして、その一人の声を広げていくのが、今度は次の発信元にもなる読み手なのですよね。これも別の意味でのリンクだと思います。

僕たちはすごい時代を体験しているのだと思います、本当に。

これからもよろしくお願いしますね。
Posted by あだなお。 at 2006年04月17日 23:20
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