2010年11月03日

名古屋議定書の誤報?

 COP10は先週の金曜日、正確には土曜日の未明にABSに関する名古屋議定書と、2020年に向けての愛知ターゲットという大きな成果を残し、閉幕しました。特に名古屋議定書はこれまでもめにもめてきたもので、直前まで、いや会議が終わるギリギリまで合意がなされなかったので、採択が危ぶまれていました。正直言って、僕もまず採択されないだろうと思っていました。

 その大変な難題であった議定書が出来たのですから、日本は議長国として大きな役割を果たしたと言えるでしょう。日本のメディアはこぞってそのように書きたてました。議定書の中身も日本の報道を見ると、利益配分の適用を植民地時代にまで遡及するという途上国の主張は退け、また、肝心の派生物についても「明確に言及せず」、一方、途上国への資金動員を支援する多国間基金を設けることと、不正を監視する機関を一つ以上設置する、というような表現が見られました。

 以下具体的な例を挙げましょう。

遺伝資源を加工した「派生物」は事実上、議定書の利益配分の対象から除外された。
出典:「COP10:名古屋議定書に合意 議長案、受け入れ 遺伝資源、不正利用を監視」(毎日新聞、2010年10月30日)

生物資源から開発した商品など「派生物」の範囲は、化学合成されたバニラエッセンスなど原材料そのものを含まない商品は対象としない。
出典:「米に条約加盟促す 名古屋議定書、議長案提示」(中日新聞、2010年10月30日)

 しかし、これが本当だとすると、途上国はなんでこんな不利な議定書に合意したのでしょうか? 一般的な派生物を含まなければ、ほとんど実質的な利益還元は出来なくなってしまいます。

 ところが、日経の報道は少し雰囲気が違います。
途上国などが求めていた、生物が持つ成分を化学合成などで改良した「派生物」についても原産国に利益を配分する余地を残した。
出典:「生物の産業利用に国際ルール 名古屋議定書を採択」(日本経済新聞、2010年10月30日)

 さらに、産経、朝日、時事などはまったく反対の印象です。
利益配分の対象については、植物や微生物などをもとに企業が開発した「派生物」も含まれると、途上国の主張が取り入れられているが、個別の契約の中で実施するため先進国も受け入れやすい内容になっている。
出典:「【COP10】「名古屋議定書」合意 「愛知ターゲット」も」(MSN産経ニュース、2010年10月30日)

利益配分の対象範囲は、研究開発で資源を改良した製品(派生品)の一部も含むことができるとした上で、契約時に個別判断するとした。
出典:「生きもの会議、名古屋議定書採択 遺伝資源に国際ルール」(asahi.com、2010年10月30日)

途上国側の主張に沿って利益還元の対象を遺伝資源の「派生物」に拡大することなどを盛り込んだ
出典:「「名古屋議定書」を採択=対立乗り越え利益配分ルール−COP10 (時事通信)」(時事通信社、2010年10月30日)http://news.www.infoseek.co.jp/politics/story/101030jijiX113/

 うーむ、果たしてどれが正しいのでしょうか? ちなみに日本政府代表団の「結果概要」では、「派生物、遡及適用、病原体等いくつかの論点での資源提供国と利用国の意見対立が続いたことを踏まえて、最終日に我が国が議長国としての議長案を各締約国に提示し、同案が「名古屋議定書」として採択された。」とあるだけで、最終的にはどういう結論になったかはわかりません(^^;) 

 こういうときには原文にあたるのが一番なのですが、決議案L.43 ver.1を見てみると、こんなややこしいことが書いてあります。ちょっと長いですが、引用しますね。
Article 2
USE OF TERMS
The terms defined in Article 2 of the Convention shall apply to this Protocol. In addition, for the purposes of this Protocol:
(a) “Conference of the Parties” means the Conference of the Parties to the Convention;
(b) “Convention” means the Convention on Biological Diversity;
(c) “Utilization of genetic resources” means to conduct research and development on the genetic and/or biochemical composition of genetic material, including through the application of biotechnology as defined in Article 2 of the Convention.
(d) “Biotechnology” as defined in Article 2 of the Convention means any technological application that uses biological systems, living organisms, or derivatives thereof, to make or modify products or processes for specific use.
(e) “Derivative” means a naturally occurring biochemical compound resulting from the genetic expression or metabolism of biological or genetic resources, even if it does not contain functional units of heredity.

 これを読むと、「遺伝子資源の利用」の中にはいわゆる「派生物」(薬品等)が含まれているようです。ただし、このプロトコルの中で使われるderivative(派生物)という言葉には、そうした薬品等は含まれず、生物が自然に作り出したものしか含まないようであることがちょっとややこしいのですが...

 というわけで、このArticle 2を素直に読めば、今回の議定書はあらゆる派生物を含むことになるようです。なるほどそうであれば、途上国がこの議定書に合意したのも頷けます。どうもこれは一部の報道機関の誤報と言っていいのではないでしょうか。

 日本のメディアには、「派生物が含まれた」ことについてその影響を含めて詳しく論評しているところはあまりないようですので、それでは海外はどのように受け止めているのでしょうか? 続きは明日ご紹介したいと思います。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
おもしろかったり、役に立ったら、クリックをお願いします!
読んだら一緒にClick me!




posted by あだなお。 at 02:10| 東京 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | 生物多様性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
名古屋議定書はどうにか通加したけれど、米国最大多国籍企業がどう動くか、関心のあるところ、アメリカ抜きの生物多様性条約会議は、心もとない思いです。
環境相のアメリカの参加要請を大きした声明にしたい。
遺伝子資源を加工した派生物は重要なもので、どこの部分までをいうのかもっと詰めてほしいですね。遺伝子組み換え大豆にしても見かけ、味もアミノ酸[成分)も同じだから安全としたこともあり、付加価値(?)を加えても実質的同等というあつかましさ、売らんがための居直りに先行き不安です。
Posted by 横山タケコ at 2010年11月09日 12:16
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
Google
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。