つまりはシェムリアップの街中は観光でかなり潤っているものの、それ以外には主だった産業があるようには思えません。ガイドブックを見ても、人口の約80%が農業に従事しているとあります。
そしてこうした郊外の農村や漁村は、かなり質素というか、はっきり言えば貧しそうに見えます。他の東南アジア諸国の農村と比べても、そのように思えます。ヤシの葉で屋根と壁をふいただけの小さな家、裸足で歩き回る子どもたち。食べ物はなんとかなっていると思うのですが、モノは極端に少ないように思えます。
シェムリアップの中心部には、観光客向けのお土産屋さんが軒を連ねていますが、そのいくつかには「工芸品の製作で、地元に雇用を創出しています」といった説明が表示されていました。
たしかに、農業と観光以外はこれといった産業はないわけですから、そうなると工芸品を作って観光客向けに売るルートを開拓することは、立派な雇用創出と言えるのかもしれません。他の国でも同様の話を聞いたりしますが、こうしたお店を見かける頻度がやや高いように感じました。
中でも印象的だったのは、アーティザン・ダンコール(Artisans D'Angkor)です。これは伝統工芸品の技術学校であると同時に、そこで作られた石像、銀細工、絹織物などの製品のブランド名にもなっています。
郊外には養蚕センターと絹製品の技術学校を兼ねたシルクファームがあるのですが、絹織物の製造プロセスをすべて実際に見ることが出来るようになっていて、なかなか興味深い場所でした。
蚕から絹糸を取り、それを何度も紡ぎ、手機で織っていく様子を見ると、なるほど大変な仕事なのだなというのがよくわかります。と同時に、このような昔ながらのやり方であれば、方法さえ覚えれば、あまり資本がなくても仕事が始められることもわかります。
そして一番印象的だったのは、このブランドの製品の品質の素晴らしさです。売店も併設されているのですが、こうした工場直売店にありがちな(^^;)うらぶれた雰囲気は微塵もなく、都会のブティックかと思うようなセンスの良い店内に、思わず見とれるようなデザインと品質の製品がずらりと並んでいるのです。
いいなぁと思って品を手にしてみると、お値段もなかなか立派です。それでも日本などで同じものを買うのに比べたらはるかにお値打ち感はありますので、商品として立派に成立しています。
正直を言えば、他のお土産屋さんで見た民芸品は、安くてもそんなに品質やデザインがいい訳ではないですし、いかにも安いお土産でしかありませんでした。記念に、あるいは「雇用創出」を支援するつもりで買っても、結局はガラクタになってしまいそうなものです。
一方、アーティザン・ダンコールの場合には、古くからの技術を復興することによって、少ない資本でも始められるビジネスを作り出しているだけでなく、市場に受け入れられるデザインと品質を兼ね備えることで、きわめて高い付加価値を生み出しているのです。
「何もない」と思わずに、ちょっと見方ややり方を変えるだけで、まだまだどこにでもいろいろな可能性が眠っているのでは? そんなことを感じさせてくれる出会いでした。
今日も読んでくださって、ありがとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
