2005年11月21日

これぜ〜んぶ、タダなんです

 先週は買い物やお金の使い方について、いくつか書きました。私たちがどのようにお金を使うかによって、社会や環境が変化すること。モノに「正しい」値段がつけられていれば、もっと環境や社会に対する配慮が進むこと。あるいは、お金を出して買わなくても手に入る幸せのこと。お金をめぐっては、いろいろなことが考えられますね。

 今日ちょっと紹介したいのは、それでは私たちは日ごろどの程度、きちんとモノの代金を払っているかです。え、もちろんちゃんと代金は払っています、誤魔化したりなんかしてませんって? もちろんそうだとは思うのですが、それはあくまで人間がつけた値札に対してですよね。

 人間がつけた価格は、そのモノやサービスを提供するために、直接的にかかったコストしか反映されていないことがほとんどです。場合によっては戦略的に、あるいはしかたなく、赤字覚悟で売っていることだってあります。しかし実際には、そうした直接的なコスト以外にも、多くのモノには、たんさくの隠れたコストや、あるいは価値が潜んでいるものです。

 たとえば、熱帯産の木で出来たベニヤ板が安いのは、その価格には伐採、製材、運搬などのコストしか含まれておらず、そのために熱帯で生じた環境面、社会面での影響、それを解決するためのコストは反映されていないからです。天然林から切りだした木材であれば、たとえその木が育つのに何百年かかっていようとも、そのためのコストはありません。人間がかかわっていなければ、コストは計算されないのです。(簡単のため、ここでは稀少価値のことは考えないことにします) これが、原料調達において環境や社会へ配慮するべき利用の一つです。

 それに加えて、自然がタダで私たちにくれるものもあります。例えば森は、木材という商品を産むだけではありません。二酸化炭素を吸収して、酸素を放出する。雨がそのまま川に流れ込まないように、蓄えたり、あるいはその場所でまた蒸散する。動物など、木以外の生物の住み処を提供する。水質を浄化する、地域の気候を安定化させる、美しい景観を提供させる、レクリエーションの場を提供する.... 数え上げれば切りがありません。

 もしこうした機能を、人間が人工的に作りだしたもので代替するとすれば、とてつもなくお金がかかるはずです。たとえば森林の機能のごく一部でしかない水源涵養(水を蓄える)機能を人造ダムで置き換えるためだけでも、大変な費用がかかります。

 ところが、自然が私たちの生活に提供してくれているこうした機能やサービスは、すべてタダ。私たちはそのために、一銭もお金を払ってはいないのです。つまり、私たちが普段支払っているモノの値段には、先に述べた間接的なコストだけでなく、自然がタダで提供してくれる機能・サービスの価値も含まれていないのです。

 それでは、自然はいったい私たちにどのぐらい、タダで機能やサービスを提供してくれているのでしょうか。アメリカはメリーランド大学のロバート・コスタンザ博士らが試算した結果が、1997年にネイチャーという論文誌に発表されています。コスタンザ博士らの試算によれば、森林は気候安定、木材供給、貯水、災害防止などで4.7兆ドル分のサービスを提供しているそうです。それ以外にも、川・湖沼は淡水供給、排水浄化などで6.5兆ドル、農地は昆虫受粉などで0.1兆ドル、そして海は食糧・酸素供給、二酸化炭素吸収などの機能でなんと21兆ドルのサービスをタダで私たちに提供してくれているのです!

 こうした生態系が提供してくれるサービスは、年間で33兆ドル分に達する計算です。もちろんこれは、この時点で把握できた生態系サービスに関してのみの数字であって、実際には私たちが気付かないもっと重要なサービスもあるかもしれません。つまり、この33兆ドルという金額は、明らかに過小評価です。

 33兆ドルとはあまりに巨大な金額で、ちょっと想像もできません。それではこの年の世界のGDPの合計額はいくらだったと思いますか? 実はこの年の全世界のGDPは18兆ドルだったそうです。つまり、この年、世界中の人間が頑張って作りだした経済活動よりも、自然がタダで私たちに提供してくるているサービスは、倍近く大きかったのです。私たちの日々の暮らしは、こうした自然の寛大さ気前の良さによって支えられているのです。

 最後に、これに関連してちょっと宣伝です。今週の土曜日、26日に環境経営学会の主宰で「CSRと生態系ー国連ミレニアム生態系評価報告書を中心としてー」というシンポジウムがあります(13:30-16:30、中央大学後楽園校舎)。僕は「企業活動と生物多様性」というタイトルで話すことになっているのですが、今日書いたようなことも、ちょっとご紹介したいと思っています。ご興味のある方は、環境経営学会学会のwebサイトで詳細をご覧ください。http://www.smf.gr.jp/

 あ、今日の記事は宣伝の前フリだったわけじゃありませんよ(^^;) 僕も宣伝のためなんかではなく、気前よく話題を提供しますからね(笑)


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皆さんのご感想、お待ちしています。


posted by あだなお。 at 23:20| 東京 ☀| Comment(4) | TrackBack(1) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
"ecosystem service" という言葉が気に入っています。

あだなおさんが書いている通り、人間は全てのものを自然から享受しているのに、それを忘れてしまいがち。自然が私たちにしてくれているサービスのコストがどこにも組み込まれていない(internalizeされていない)ということが問題ですよね。最近では、Ecological Footprintの議論も少しずつ大きくなってきているので、多くの人に分かりやすいこの指標をうまく使って、コスト面に環境・社会影響が組み込まれるようになるといいですよね。
Posted by koko at 2005年11月22日 10:48
kokoさん、こんにちは。

そうですね、ecosystem serviceってわかりやすいですよね。これが自然の価値のすべてではないのですが(というか、実はその本の一部に過ぎないのですが)、比較的誰にでも受け入れてもらいやすい考え方だと思います。

Ecological footprintもそのうちとりあげましょうかね。

コストの内部化はぜひ進めたいのですが、無制限に進めるとあまりにコストが高くなり過ぎてしまいます(^^;) なにせ、世界のGDPの倍がタダで提供されているわけですから(笑) そこで、今は完全に外部化されているコストをどこまで内部化するか、その議論と合意を段階的に進めていきたいですね。
Posted by あだなお at 2005年11月23日 18:30
以前教えていただいたこと思い出して・・・
あぁ、ため息が出ちゃいます(^^;

環境面・社会面を考慮すると、そのモノの代金やサービスが果たして妥当なのかどうか、自分達の購買意識&行動も問いながら現在グループ学習をしています。

ペーパーに落としてになりますが(スミマセン)
とても分りやすい内容なので是非他の方にも紹介させてくださいm(__)m

Posted by あいか。。 at 2007年10月12日 11:02
あいか。。さん

随分と前のエントリーを読み返していただいて、ありがとうございます!

最近はこうした生態系に対してある程度費用を払おうという、Payment for ecological serviceという考え方もあります。ただ、「対価」というよりは、「多少は」払うという感じですが(笑)

どこまでできるかはわかりませんが、なるべく外部不経済をなくしたいですよね。
Posted by あだなお。 at 2007年10月14日 01:06
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