昨日「
オランウータンの憂鬱」でご紹介した
旭山動物園は、日本でもっとも元気な動物園ということで、メディアでも大きく紹介されています。閉園寸前だった典型的な地方の動物園が、動物たちの活き活きとしたしぐさや動きを楽しめる「
行動展示」という手法で復活し、今では全国からお客さんが集まるようになったのです。
《関連リンク》
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旭山動物園ホームページ(公式ページ)
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旭川市旭山動物園(Wikipedia)
オランウータンの他にも、シロクマがエサを採る様子を水中から観察できたり、猿山などもサルの知的好奇心を刺激するように工夫がしてあります。こうした行動展示は、形態展示が主流であったこれまでの日本の動物園に比べて、圧倒的に楽しいと思います。動物たちの住み処も、コンクリートと鉄がむき出しの檻ではなく、表面にはなるべく自然の素材を使い、動物にも見る人にも違和感を減らす努力をしています。
しかし、です。昨日書いたオランウータンもそうですし、動物たちを見ている間にこちらの方が憂鬱になって来ました。トラやヒョウなどの大型獣は、落ち着きなく獣舎の中をうろつき回っていますし、巨大に成長したワニは、自分の長さと同じぐらいの狭いスペースに閉じこめられています。旭川の夏はかなり暑いようですが、熱帯生まれの動物たちにとっては、冬はとても厳しいものに違いありません。
シロクマもそうでした。エサの魚を投げられると、シロクマはプールの中を泳いで捕食します。なるほどシロクマってこんな風にうまく泳ぐのだなとわかりますし、なんといっても可愛らしいのです。しかし、そんな中に一頭、旭山動物園に連れてこられてから、まだ一度しか(*)プールに入ったことがない個体がいるそうです。説明の表示では、その個体を「頑固者」と呼んでいましたが、これは明らかにストレス、いや、精神を病んでいるのではないでしょうか。
(*:記憶が曖昧です。もしかしたら0回、あるいは2回だったかもしれません。いずれにしろ、おそろしく少数です。)
「見せ物」から始まった動物園も、メディアが発達するにつれ、珍獣奇獣を見せて楽しませるという役割からは卒業し、教育機関として、あるいは絶滅の危機に瀕している種を人工環境下で一時避難的に保全するための機関に役割を移行しつつあります。もちろん従来の日本の多くの動物園と比べれば、旭山動物園は教育面でも頑張っているとは思うのですが、世界の先進的動物園と比べると、まだちょっと遅れているようにも感じました。
と言いながら、そんなにいろいろな動物園を訪れた経験はないのですが(^^;)、動物園の役割や最近の流れについては、川端裕人さんの「動物園にできること」を読むとよくわかります。僕は何年か前に1999年に出た単行本で読みましたが、今年になって文庫版が出版され、こちらには2000年以降の日本の最新情報も追加されているそうです。
これまでに実際に訪れた中で非常に印象的だったのは、純粋な意味での動物園ではないのですが、フロリダのディズニーワールドにあるアニマル・キングダムです。ディズニー流の動物園といった感じのテーマパークで、世界のいくつかの地域を巡りながら、その地方の風景の中で動物たちを見ることができます。
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Disney's Animal Kingdom Them Park(公式サイト 英語)
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ディズニー・アニマルキングダム(日本語公式サイト)
例えばアフリカのサバンナなどは、限られたスペースを上手に使って、サバンナの雰囲気をとてもよく表現していました。そのエリアに立てられていたお土産屋さんやレストランも本当によく作り込まれていて、かつて訪れたケニアの記憶が甦って来たほどでした。
そして、もっとも印象的だったのは、バックヤードツアーでした。動物園の裏側、つまり飼育係の人たちが仕事をしている様子を見学できるコースがあるのですが、動物の生態について、あるいは動物を世話するこの難しさについて、とても教育的に出来ているのです。
もし子どもの頃に訪れていたら、きっと将来は獣医さんになりたいと思ったはずです。
そこで一番驚いたのは、このアニマル・キングダムに「勤務」する
大型獣には、十分な休日があることです。日本の多くの動物園のように、週に一日月曜日だけが息抜きできる日ではないのです。たとえばサイなどは、たしか週休4日制ぐらい。お客さんの前に出ている時間よりも、バックヤードで休んでいる時間の方が長いのです。もちろん休んでいる間には、「同僚」がお客様の相手をします(笑)。
動物たちの視点から出て来る発想です。
ディズニーワールドというと、ひどく人工的な、あるいは金もうけだけを考えているかのような印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にアニマル・キングダムを見て僕が感じたのは、「
動物園って、ここまで楽しくできるんだ」ということでした。訪れた人たちは、動物たちの世界を楽しみながらも、野生生物を保護することの大切さ、大変さをしっかり学んで帰るのです。正直、「やられた」と思いました。
旭山動物園の話に戻りますと、もちろん評価すべきこともあります。特に、閉鎖寸前の地方の動物を、ここまで元気にしたのは素晴らしいことです。日本で一番元気な動物園という言葉にウソはないですし、ディズニーとは対極にある、素人の手作り感もいいと思います。
しかし、マスコミからももてはやされ、有名になり過ぎたがゆえのキャパシティーオーバーは、マイナスの方向に働いていると思います。そもそも、こんなにたくさんのお客さんが来ることを想定して、作られている施設ではないのです。
そして、ここの最大の悲劇は、過去の遺産とも言うべき珍獣大集合状態でしょう。旭山動物園に行けば寒冷地の動物をまとめて見ることができる。しかもその行動を理解することができるとなれば、これは意味のあることです。しかし、メディアの発達した今、北海道でオランウータンやライオンを見る必要はないでしょう。そういう動物は、その飼育にもっと適した環境の他の動物園に任せておけばいいのです。
北国の動物だけに集中すれば、一種類あたりのスペースは増え、より自然な行動を観察することができ、なんと言っても、動物たちにとってもハッピーなはずです。そして、旭山動物園の位置づけも、より明確になります。
幸い新しい動物舎も増えて、行動展示はますます広がっていくようです。あと何年もすれば、この過熱した人気も落ち着くでしょう。今いる珍獣たちが寿命を迎えるころには、世界中の珍獣を集めた見せ物小屋ではなく、この地域にしかできない、地域性を生かした展示に再編成するという選択もできるはずです。
正直言えば、僕は、今の旭山動物園はわざわざ東京から見に行く価値があるとまでは思いません。しかし、もし旭川に用事があれば、ついでに立ち寄る価値はあるでしょう。そして、行くなら断然冬なのではないでしょうか。北国の動物たちが活き活きとしてる
冬こそ、旭山動物園は似つかわしいように思います。
そして何より、ここにはまだまだ可能性があります。おそらく動物園としても、まだ完成形であるとは考えていないのではないでしょうか。進化途上の旭山動物園に、エールを送りたいと思います。
大変な長文を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
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