ケナフの何が問題なのかという質問をいただきましたので、今日はそのことについてちょっと書いてみたいと思います。
今から10年ちょっとぐらい前からでしょうか、環境にやさしい植物として
ケナフの栽培を推奨する方やグループが登場してきました。曰く、非木材資源であるケナフから紙を作れば森林資源の節約になるとか、ケナフはCO2の吸収速度が速いので地球温暖化の防止に役立つということなのですが...
まず非木材紙であるケナフの使用によって、木質チップの使用量が減るのは確かです。しかし、ケナフを材料にして紙を作ったのでは、木から作る場合に比べて、おそらくかなり生産効率は悪いでしょう。つまり、材料に無駄が出たり、余計なエネルギーを使うということです。紙を作る原料を木からケナフに切り替えても、環境負荷はむしろ増えてしまうかもしれません。
またケナフがCO2の吸収速度が速いかどうかですが、そもそも吸収速度は様々な環境条件によって大きく変化するので
単純な比較はできないのですが、あえてエイヤッと比べれば... ケナフが他の草本より
特に速いわけではなさそうです。在来種のヨシなども同じか、もっと速いぐらいです。また、水草の中には、ケナフより吸収速度が速いものはいろいろあります。
《参考リンク》
■「「
ケナフの生産性」は本当に高いのか(藤井伸二:大阪市立自然史博物館)」(「け・ke・ケ・KE・ケナフ?)
さらに、温暖化の防止に役立つためには、
吸収したCO2を固定しなければ意味がないのです。一年草のケナフは、CO2を吸収してもすぐに枯れて腐ってしまいます。つまり固定されたCはすぐにまた大気に戻ってしまうということです。ケナフを原料に紙を作っても同じです。その紙が燃やされれば、やはり再び大気中にCO2として放出されてしまいます。
一方、木はどうかといえば、吸収速度はケナフや草本よりは少なくても、固定されたCは材としてしっかり保持されます。木がそこに立っている限りは、あるいは建築材として使われたり、家具がその形を維持している限りは、固定されたCはずっとそのままなのです。ケナフと木と、果たしてどちらが気候変動の防止に役立つかは明白です。
というわけで、他の植物と比べてケナフが特に「環境にやさしい」とすることには無理がありそうです。
そして一番問題になるのは、ケナフが日本にもともと生えていた植物ではなく、海外から持ち込まれた
外来種であるということです。外来種であるケナフは日本で繁茂してしまうと、それと同じような生息場所にもともと生息していたヨシやオギなどと競争することになり、もしかするとヨシやオギがその競争に負け、ケナフが優占してしまうかもしれません。そうやって、地域の
生物多様性を低下させることになります。
しかも、在来種のヨシやオギが生息場所を奪われるだけでは済みません。ヨシやオギの茂みを生息場所、繁殖場所としていたネズミなどの小動物や水鳥にとっても大問題になるのです。個々の種のみならず、
生態系まで撹乱してしまうことになります。しかもこうした変化は多くの場合不可逆的であり、
修復するのは不可能か、非常に困難です。
もしどうしても木質チップの使用を減らしたかったら、ケナフなど植えずに、在来種のヨシでも植えればいいのです。(っていうか、まずは紙の使用量を減らしましょう!(笑)) もし植物を植えることで気候変動を防ぎたかったら、CO2を固定する能力が高い在来種の木を育てればいいのです。あえて外来種のケナフを植える必要性はまったくありません。
おそらくケナフから作った名刺を使っている方も、ケナフをせっせと植えている方も、「環境に良いことをしたい」という純粋な気持ちからのことだと思います。だとしたら、「ケナフが環境に優しい」という神話を信じるのは、そろそろ止めにしませんか? 副作用なしに出来ることが、他にいくらでもあるのですから。
なお、ケナフのこうした問題性については、畠佐代子さんの「
け・ke・ケ・KE・ケナフ?」に情報が集約されています。ケナフ推進派のサイトも、そちらから多数リンクが張られています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今日の記事はお役に立ちましたか?
応援してくださる方は、Click me!
posted by あだなお。 at 23:59| 東京 ☁|
Comment(3)
|
TrackBack(0)
|
非常識
|
|