2011年03月07日

田んぼには5668種!

 里山は生物多様性が豊か。そう言われても、どのぐらい豊かなのか、あまりピンと来ない方も多いと思います。正直に白状すれば、僕自身も里山は奥山などの自然生態系に比べて、実際にどのぐらい豊かなのか、あるいはそこまでは豊かではないのか、定量的な調査結果を見たことはありませんでした。

 ところが「田んぼの生物多様性指標・企画委員会」の調査結果によれば、田んぼには5668種もの生きものがいるというのです。特に多かったのは植物の2075種、そして昆虫の1726種です。いずれもすごい数ですが、もちろんこれはすべてを網羅したものではなく、実際にはもっともっと、いろいろな生きものがいるはずです。例えば、昆虫が植物より少なくてすむはずがありませんから(笑)

 この話は先日、調査にも参加したNPO法人田んぼの理事長である岩淵成紀さんからお聞きしましたのですが、そもそもこれまで、田んぼの生物の徹底的な調査は行われたことがなかったのだそうです。案外、盲点だったのです。そしてさらに面白いのは、今回の調査もプロの研究者だけがしたものではなく、虫好き、植物好きの市民を巻き込んで、大勢の方々の手で調査したということです。農家のおいじいちゃんやおばあちゃんだけでなく、家庭の主婦や普通の会社員が、みんなで力を合わせて調査したのです。分類学者のことをタクソノミスト(taxonomist)と呼びますが、こういう玄人はだしの協力者をパラタクソノミスト(parataxonomist)、略称パラタクと岩淵さんは呼びます。

 田んぼをはじめとする里山は、少なくともかつては、私たちの生活の場でした。そこにはイネ以外にどんな生きものが暮らすのか。そこで暮らす人々は、みんなそれを知っていたのです。もちろんそれは農家の方々だけではありません。田んぼで見かける代表的な植物の葉を図案化したポスターを見せてもらいましたが、どれも馴染みがあるものばかりでした。一つひとつの名前まではわからなくても、皆さんもきっとその形に見覚えがあることでしょう。

 私たちは本来、実に多様な生きものに囲まれていたということを如実に語る数値であり、事実です。こういうことを数値で見せつけられると、私も里山に対する評価を上げずにはいられなくなりました。

 そしてさらに面白いのは、NPO法人田んぼでは、単にそこに棲む生物種の数だけではなく、「田んぼの底力」と呼ぶ農家の工夫、農家の方の土を作る努力(土力)を数値化した「土壌活性数値」の3つの指標を使って、多くの生きものと共生する田んぼの独自の新しい活動評価システム「田んぼのいきものとの約束」を作ったのです。この指標は、生きものと共生するために「農薬を使ってはいけない」というようなこれまでのような減点方式ではなく、役に立つことをすればどんどん点数が上がっていく、加点方式。点数も100点が満点というわけではなく、青天井です(笑) 実に前向きで、楽しくなる指標ですね。

 この「田んぼのいきものとの約束」のことも含めて、詳しくはぜひ以下の記事をご覧いただきたいと思いますが、こうした自由な発想と活動から、田んぼの価値が再評価され、単なる「お米製造工場」ではなく、イネ以外の5667種の生きものを育む環境としての田んぼが増えることに期待したいと思います。
■「おいしいお米と生物多様性を両立させる「ふゆみずたんぼ」の底力」(地球リポート)

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2011年02月03日

シンポジウム満載の2月

 2月はシンポジウムが多いですね。生物多様性関連のものも多数あり、直接関わっているものだけでも3件あります。COP10後は、個別企業さんからのお問い合わせや対応の方が多かったので、オープンのシンポジウムはちょっと新鮮です(笑)

 まず2月17日(木)に国連大学で開催されるのは、国際シンポジウム「生物多様性を測る〜企業で使える生態系サービス指標〜」です。

 東北大学の生態適応グローバルCOEの主催による3回目の国際シンポです。昨年は生物多様性オフセットについて各国からの紹介があり注目を集めましたが、今年は生物多様性や生態系サービスをいかに計るか、指標についてのシンポジウムです。企業の方々はいま一番興味があるところではないでしょうか。

 具体的には、WBCSDによるCEVや、UNEP-WCMCの独自の指標プログラム、あるいはGRIと共同で開発中の指標、またBirdlife Internationalなどが開発している指標についてご紹介いただき、後半では日本企業の皆さんとその活用や課題について議論します。僕はパネルディスカッションでコーディネートをします。


 翌週の2月23日(水)には、日本企業に生物多様性の重要性を目覚まさせたとも言ってよい、三井住友海上の「企業が語るいきものがたり」、今年はついにPart 4となりました。今年もJBIBが協力して、いま日本の先進企業が何をしているのか、何を目指しているのかが紹介されます。一番の注目は、JBIBが開発した「土地利用通信簿」でしょう。

 おっとあまりネタをバラしたり、特定の話題だけ強調してはいけませんが(笑)、COP10の総括や、社内推進の方法、また、定量化手法についてなど盛りだくさんです。企業人の方は必ず参加すべきシンポジウムと言って良いと思います。僕は最後のパネルディスカッションのコーディネートを行います。


 さらにその翌日24日(木)には、再び国連大学で、シンポジウム「生物多様性と企業の役割〜 認証パーム油製品の動向」が開催されます。

 いよいよ認証パーム油が上市し、欧州のトップブランドは、メーカー、小売とも、一斉に認証パーム油の使用へのコミットを表明しています。RSPOの認証パーム油とは何なのか、欧州市場はどのように動いているのか、残された課題は何なのか。多くの消費剤メーカーや小売業、さらには商社の方々や消費者の方にも、ぜひご参加いただきたいシンポジウムです。

 関連業界にとって重要なのは当然ですが、パーム油は制度作りがうまくいっている原料でもあるので、生物多様性に配慮した原材料調達を考えているあらゆる業種にも役立つと思います。僕は基調講演とパネルディスカッションのコーディネートを担当します。


 それ以外にも、例えばABSについては、「2011 ライフサイエンス知財フォーラム ライフサイエンス分野における生物多様性条約(CBD)〜 あなたの研究や特許は大丈夫ですか? 〜」というちょっと扇情的なタイトルのフォーラムも開催されます。こちらは2月10日です。製薬はもちろん、食料、飲料、化粧品など、生物原料をお使いのメーカーの方は必見でしょう。


 企業の方々には、こうしたシンポジウムで最新の知見を入手して、新年度からはさらに本格的に生物多様性の保全に取り組んでいただければと思います。


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2010年11月23日

各国は名古屋議定書をどう見たのか?

 名古屋議定書が採択されたことやその中身について、日本以外の国はどう見ているのでしょうか? 予定より随分と遅くなってしまいましたが(^^;)、ご紹介しましょう。

 インド第二の英字紙であるThe Hinduは、「名古屋議定書はインドの大勝利」という大きな見出しを掲げました。インドは次のCOP11の開催国であると同時に、生物多様性が特に豊かな世界で17のメガダイバーシティ国家の一つでもあります。そのインドのジャイラム・ラメシュ環境大臣は、派生物と病原体がABSの一部であることが認められたことはインドの大勝利だ語っています。そして世界最大の遺伝子資源の利用国である米国をこの枠組みに組み込むことが、2012年のCOP11の最大の目標だとしています。
出典:"Nagoya Protocol, a big victory for India"(The Hindu 2010/10/31)

 それでは、先進国はどうでしょうか? BBCは採択が行われた直後に配信された記事の中で、「ABSはEUにリードされ、いくつかの重大な譲歩の結果、解決された」と報じています。特に「専門的には派生物と呼ばれる遺伝子資源から得られたすべてもの(anything)をカバーする」ことになったことを強調し、これは以前よりずっと範囲が広がって合意されたと報じています。
出典:"Biodiversity talks end with call for 'urgent' action"(BBC 2010/10/29)

 もっといろいろとバラエティのある意見を紹介しようと思ったのですが、実は名古屋議定書について詳細に報じている海外メディアは案外限られていました。そこで、COP10の間、毎日議論の進展を報じてきた"Earth Negotiations Bulletin"のCOP10 Final号の記事をご紹介しましょう。
 ENBでは、名古屋議定書は「創造的曖昧さの傑作」(“masterpiece in creative ambiguity)であると評し、様々な問題を解決するのではなく、バランスの取れた妥協を提案してどうにでも解釈できる短くて一般的な提案を行ったので、実施が難しいだろうとしています。そして、派生物の問題については、途上国が提案してきたように広い解釈ができる一方、それが利益配分の義務の対象であると明示していないことを懸念しています。時間をかければもっと良い成果は出来たかも知れないが、時間がかかりすぎることで議定書が完成できなくなってしまうリスクを避けたのであろうという分析です。後は暫定委員と各国による実施時の問題になるが、それはかなり困難なものになるであろうと予測しています。

 そのようなわけで、やはりかなり解釈の幅のある議定書と言えそうです。僕なりの解釈は近々ECO JAPANの「COP10の歩き方」に番外編として掲載予定ですので詳しくはそちらをご覧いただきたいと思います。

 そして最後に一言だけ付け加えておきたいのは、一部のメディアが報道したように「(広義の)派生物が含まれない」ということはあり得ないということです。むしろ合意の曖昧さを盾に、資源提供国はこれもあれもみんな利益配分の対象だと今後さらに主張してくる可能性が増えると考えられます。結局は個別交渉でどう合意するか次第ですので無闇に警戒する必要はありませんが、自分たちにとって都合のいい解釈だけをしていると痛い目にあうかもしれません。その点だけは、十分に注意した方が良さそうです。

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2010年11月03日

名古屋議定書の誤報?

 COP10は先週の金曜日、正確には土曜日の未明にABSに関する名古屋議定書と、2020年に向けての愛知ターゲットという大きな成果を残し、閉幕しました。特に名古屋議定書はこれまでもめにもめてきたもので、直前まで、いや会議が終わるギリギリまで合意がなされなかったので、採択が危ぶまれていました。正直言って、僕もまず採択されないだろうと思っていました。

 その大変な難題であった議定書が出来たのですから、日本は議長国として大きな役割を果たしたと言えるでしょう。日本のメディアはこぞってそのように書きたてました。議定書の中身も日本の報道を見ると、利益配分の適用を植民地時代にまで遡及するという途上国の主張は退け、また、肝心の派生物についても「明確に言及せず」、一方、途上国への資金動員を支援する多国間基金を設けることと、不正を監視する機関を一つ以上設置する、というような表現が見られました。

 以下具体的な例を挙げましょう。

遺伝資源を加工した「派生物」は事実上、議定書の利益配分の対象から除外された。
出典:「COP10:名古屋議定書に合意 議長案、受け入れ 遺伝資源、不正利用を監視」(毎日新聞、2010年10月30日)

生物資源から開発した商品など「派生物」の範囲は、化学合成されたバニラエッセンスなど原材料そのものを含まない商品は対象としない。
出典:「米に条約加盟促す 名古屋議定書、議長案提示」(中日新聞、2010年10月30日)

 しかし、これが本当だとすると、途上国はなんでこんな不利な議定書に合意したのでしょうか? 一般的な派生物を含まなければ、ほとんど実質的な利益還元は出来なくなってしまいます。

 ところが、日経の報道は少し雰囲気が違います。
途上国などが求めていた、生物が持つ成分を化学合成などで改良した「派生物」についても原産国に利益を配分する余地を残した。
出典:「生物の産業利用に国際ルール 名古屋議定書を採択」(日本経済新聞、2010年10月30日)

 さらに、産経、朝日、時事などはまったく反対の印象です。
利益配分の対象については、植物や微生物などをもとに企業が開発した「派生物」も含まれると、途上国の主張が取り入れられているが、個別の契約の中で実施するため先進国も受け入れやすい内容になっている。
出典:「【COP10】「名古屋議定書」合意 「愛知ターゲット」も」(MSN産経ニュース、2010年10月30日)

利益配分の対象範囲は、研究開発で資源を改良した製品(派生品)の一部も含むことができるとした上で、契約時に個別判断するとした。
出典:「生きもの会議、名古屋議定書採択 遺伝資源に国際ルール」(asahi.com、2010年10月30日)

途上国側の主張に沿って利益還元の対象を遺伝資源の「派生物」に拡大することなどを盛り込んだ
出典:「「名古屋議定書」を採択=対立乗り越え利益配分ルール−COP10 (時事通信)」(時事通信社、2010年10月30日)http://news.www.infoseek.co.jp/politics/story/101030jijiX113/

 うーむ、果たしてどれが正しいのでしょうか? ちなみに日本政府代表団の「結果概要」では、「派生物、遡及適用、病原体等いくつかの論点での資源提供国と利用国の意見対立が続いたことを踏まえて、最終日に我が国が議長国としての議長案を各締約国に提示し、同案が「名古屋議定書」として採択された。」とあるだけで、最終的にはどういう結論になったかはわかりません(^^;) 

 こういうときには原文にあたるのが一番なのですが、決議案L.43 ver.1を見てみると、こんなややこしいことが書いてあります。ちょっと長いですが、引用しますね。
Article 2
USE OF TERMS
The terms defined in Article 2 of the Convention shall apply to this Protocol. In addition, for the purposes of this Protocol:
(a) “Conference of the Parties” means the Conference of the Parties to the Convention;
(b) “Convention” means the Convention on Biological Diversity;
(c) “Utilization of genetic resources” means to conduct research and development on the genetic and/or biochemical composition of genetic material, including through the application of biotechnology as defined in Article 2 of the Convention.
(d) “Biotechnology” as defined in Article 2 of the Convention means any technological application that uses biological systems, living organisms, or derivatives thereof, to make or modify products or processes for specific use.
(e) “Derivative” means a naturally occurring biochemical compound resulting from the genetic expression or metabolism of biological or genetic resources, even if it does not contain functional units of heredity.

 これを読むと、「遺伝子資源の利用」の中にはいわゆる「派生物」(薬品等)が含まれているようです。ただし、このプロトコルの中で使われるderivative(派生物)という言葉には、そうした薬品等は含まれず、生物が自然に作り出したものしか含まないようであることがちょっとややこしいのですが...

 というわけで、このArticle 2を素直に読めば、今回の議定書はあらゆる派生物を含むことになるようです。なるほどそうであれば、途上国がこの議定書に合意したのも頷けます。どうもこれは一部の報道機関の誤報と言っていいのではないでしょうか。

 日本のメディアには、「派生物が含まれた」ことについてその影響を含めて詳しく論評しているところはあまりないようですので、それでは海外はどのように受け止めているのでしょうか? 続きは明日ご紹介したいと思います。

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2010年10月21日

COP10が始まりました!

 月曜日から生物多様性条約のCOP10が名古屋で始まりました。私も2週間の期間中はずっと名古屋に滞在し、会議やイベントに張り付いています。

 既に皆さんご存じかと思いますが、今回の締約国会議の目玉は二つ。いわゆるポスト2010年目標、2050年のビジョンとそれを達成するための2020年に向けてのミッションを決めることです。どこまで踏み込んだものにできるかはわかりませんが、何かしらのものはできるでしょう。

 もう一つは、ABS、つまり遺伝子資源へのアクセスと利益配分のルール作りです。うまく合意できれば、「名古屋議定書」が採択されることになるわけですが、これはまだまだもめています。

 この2週間ぐらいメシアからの取材や問い合わせが非常に多かったのですが、皆さん特に後者のABSに興味が集中していました。やはりお金が動くところに、あるいはわかりやすい南北対立の構図にひかれるのでしょうか...

 ABSについて詳しくは、日経電子版の連載「経済を変える生物多様性」の以下の記事を書きましたので、ご参考になさってください。
第8回「遺伝子資源の利益配分に関する国際ルール『名古屋議定書』は採択できるか?」

 COP10は公式の議論もその周辺で行われるサイドイベントも非常に多岐にわたり、全体像を掴み、また必要な情報を集めるのは非常に難しいのですが、企業人にとって 役立ちそうなことを僕なりにまとめてご紹介することにしました。日経ECO JAPANの特設コーナー、「ビジネスパーソンのための『COP10の歩き方』」でほぼ毎日発信していますので、最新情報はこちらをご参照ください。

 公式の会議の様子は、Webでも見ることができます。今回はなんと日本語のチャンネルもありますし、ライブだけでなくオンデマンドで既に終わったセッションを後から見ることも出来ます。実際の議論の様子を見てみたい方は、以下でどうぞ。
COP10ビデオ中継

 一方、こうした公式の中継の他に、「生物多様性交流フェア」の見所をUstreamで紹介しようというボランティアの方々の取組もあります。例えば、以下はいかがでしょうか?
■Ustream「生物多様性交流フェア

 新聞情報でしたら、「あらたにす」が、日経・朝日・読売の関連ニュースをまとめて読めるようになっています。

 それ以外に、様々なNGOやボランティアなどが情報発信をしていますが、例えばWWFのスタッフの方のブログなどは、情報が豊富なようです。
WWFジャパンスタッフブログ

 twitterでは、僕をフォローしていただいてもいいのですが(笑)、#cop10や、#ej_cop10、#bdjpなどのハッシュタグを使うとよいようです。

 名古屋まで出かけられないという方も、インターネット上の様々な情報でCOP10の熱気と最新の情報に触れてくださいね。

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2010年08月27日

新刊発行予定です

 この数ヶ月、かなりエネルギーを注ぎ込んでいた新刊の発行スケジュールが確定しました。タイトルは「生物多様性経営 持続可能な資源戦略」で、9月27日の発行予定です。

 ちょっと大仰なタイトルですが、企業が生物多様性を保全することは、単なる社会貢献ではないことはもちろん、リスク管理としての対応でもなく、もっと大きな意味がある。そういう本です。

 そのココロは、生物こそ21世紀以降のビジネスを支える持続可能な資源ということです。しかも、生物資源は再生可能な資源であるだけでなく、これまでの私たちの技術や生活を一変させるような、そんな可能性も秘めているのです。

 そんな生物資源を活用することが21世紀以降のビジネスが成功する鍵なのですが、そのためには、生物をよく理解すること、多様な生物を保全することが重要であるのは言うまでもありません。

 そしてそのような生物多様性を活かした経営をするためには、いくつか注意しなければならない点があります。それは... 本書を読んでのお楽しみということで(笑)

 このように、この本はこれまでの生物多様性の本とは違って、現状を解説するだけではなく、未来の可能性について語る、ちょっと異色の本になったと思います。既にアマゾンで予約可能になっていますので、ご興味のある方は、ぜひ予約なさってくださいね(と、宣伝(笑))。

 ところで、COP10まであと一ヶ月半ということで、このところ急速にメディアからの取材が増えています。新聞、テレビ、ラジオ等々、ほぼ連日のように取材の方がいらっしゃって、COP10が近づいて来たのだなと感じます。嬉しいのは、最近は「生物」の話題としてではなく、「経済」の話題として取り上げてようとしてくださるメディアも増えてきていることです。生物多様性条約の本当の意味が、徐々に浸透しているのかなと感じます。

 そうは言うものの、これまでのところ取材をいただいたのは、やはり環境関連と経済関連のメディアの方が圧倒的です。さすがに一般の週刊紙とか、そういう広がりはまだありません。生物多様性というのは本来は私たちの日常生活、日常のビジネスと関わりがある問題ですので、COP10を機に、関心がどこまで広がるか、広げられるかだと思います。

 皆さんもぜひ、周りの方々と生物多様性を話題にしてみてくださいね。
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2010年06月28日

三冊進行中です

 久しくブログを更新していなくて、申し訳ありませんm(__)m。書いている時間がないというより、このところ猛烈に書いているのです。と言っても、ブログではなく、ツイッターでもなく(笑)、本の原稿です。

 我ながら無謀だと思うのですが、今年になって3冊の本が並行して準備中です。一冊は環境マネジメントに関するものですが、僕は分担執筆だけで、こちらはしばらく前に校正も終わったので、後は全体の仕上りを待つばかり。タイトルや発売時期が正式に決まったらまたご紹介します。

 もう一冊は、企業と生物多様性に関するかなり分厚い本の監修です。「企業が取り組む「生物多様性」入門」というタイトルで、7月22日発売が決まりました。自分でも多少書きましたが、分量的は多くはないので、スケジュールのことを除けば、大変だったわけではありません。

 ちなみにこの本は、先進的な日本企業11社の事例と、こうした企業と協働する3団体について、担当者本人が執筆しているというのが特徴です。そこで僕も「そうした執筆者が書いていることから、個別の取り組みのトピックス的に紹介するのではなく、各社の事業と生物多様性の関係性を踏まえた上で、多くの場合には時間的な背景まで含めて、総合的に取り組みが紹介されている。したがって、なぜそうした活動をする必要があったのか、それがビジネスにどう活かされているのか、そうしたことが文脈を含めて理解でき、必然性臨場感がまったく異なる」と巻頭に書きました(笑)。我田引水ではあるのですが、実際、そのぐらい意味のある本になると思います。

 もちろんそれ以外にも、生物多様性や企業活動との関係性について、基本的なことはみんなカバーしてありますし、海外の先進企業9社の取り組みの紹介もあります。企業担当者の方が、「一冊ですべてわかる」ことを目指したものですので、ぜひご予約をお願いします〜。

 さて、三冊目が、今もまだ最後の産みの苦しみ中(^^;)の単著です。これも企業と生物多様性に関するものですが、上記の「企業が取り組む「生物多様性」入門」が実務担当者向けであるのに対して、こちらは企業経営者向けです。そのため、中身もスタイルもまったく違うものになっています。なぜ生物多様性が重要なのか。目の前のリスクについてだけでなく、もっと長期の大きな視点で書いた本になりつつあります。

 そんなわけで、書くことそのものや、これがどう評価されるかを考えると非常に楽しいのですが、書き下ろしの単著なので、なかなか大変です。平日もかなりの時間を割いて、そして週末はもうほとんどこれに掛かりきりになっています。昨日までで要約9割方は書き上げましたので、残り少しと、その後の整理をこれから頑張ります。順調に進めば、8月中は難しそうですが、9月上旬には書店に並ぶはずです。ご期待ください。(あ、こちらもタイトルが決まったらまたお知らせします)

 というわけで、ブログ以外のところでバリバリ書いていますので、ブログの復活はもうちょっと待っててくださいね。また、細かな気付きや問題意識は、ツイッターもご覧ください。アカウントをお持ちの方は、@adanaoをフォローください。

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2010年05月31日

NGOを舐めてはいけません

 サスラボでも取り上げた、ネスレに対するグリンピースのネガティブ・キャンペーンですが、グリンピースの勝利に終わりました。もしかしたら、「また過激なNGOが、過激なキャンペーンをしている」と眉をひそめた方もいらっしゃったかもしれませんが、ネスレはグリンピースの要求を完全に受け入れたのです。

 グリンピースのサイトでは、以下のようにその成果が発表されています。
2ヵ月で、
34 カ国から、
30万通以上のメッセージ。
150万回視聴されたビデオ。
↓↓ その結果 ↓↓
5月17日、 世界最大の食品・飲料会社ネスレ本社は、熱帯雨林を破壊してつくられた製品の使用中止を発表しました!

しかも、消費者と向き合う企業としてはもっとも包括的なパーム油などの調達指針を掲げ、熱帯雨林とオランウータンたちの保護をすすめる画期的な方針を打ち出しました。
出典:「ネスレ本社は、熱帯雨林を破壊してつくられた製品の使用中止を発表しました!」(グリンピース・ジャパン)

 今回のキャンペーンのためにグリンピースが作った映像は非常に効果的なものでした。文字で表現しただけであれば、これほどの大きな反響はなかったかもしれません。わかりやすく、そして誰しもこれはマズイ!と思うような映像にすることで、多くの消費者から賛同を得、その声がネスレに届いたのだと思います。映像が150万回視聴されたというのもさることながら、映像を見た5人に1人がネスレにメッセージを送ったという驚異的な割合が、映像のインパクトの大きさを物語っています。

 さすがにこれだけの反応があると、ネスレとしても対応せざるを得ないでしょう。メッセージを送って来た50万人の消費者の背景には、その何倍もの同じ思いの消費者がいるはずです。シナール・マス社からのパームオイルの購入を止めただけではなく、さらにそれを回避するような調達も止めました。ネスレのサプライヤーであるカーギル社も、同様のコミットメントをしたのです。

 そして、TFT(The Forest Trust)などのNGOと協力しながら、責任ある調達を進めていくことを発表しています。現在は使用するパーム油の18%がCSPO(認証された持続可能なパーム油)ですが、2011年にはこれを50%にし、2015年には100%にするとしています。

 さらにはパーム油だけではなく、包装に使用する紙についても、同じシナール・マス グループのAPP社の製品は購入しないことを宣言しています。APP社もやはり、熱帯林を破壊してパルプを生産していると非難されているからです。

 以上のことについては、ネスレ本社からは以下のような詳しい声明が発表されています。ただ残念なのは、日本のネスレのサイトには、一切そうした説明がないことです。日本ではあまり問題にならなかったということなのかもしれませんが...
■"Statement on deforestation and palm oil"(Nestle)

 今回のネスレの一連の対応は非常に素早いもので、ネスレを動かしたグリンピースのキャンペーンは大成功だったと言えます。しかし、さらに注目したいのは、グリンピースのキャンペーンが非常に用意周到であったということです。

 というのは、ネスレはパーム油の問題について、これまでまったく何もしてこなかったわけではありません。既にある程度CSPOの利用も始めていました。また、パーム油はネスレにとって主要な原材料ではなく、さらには、シナール・マス社からの購入量も全体の中で大きいものではありませんでした。つまり、ネスレが本気で変えようと思えればすぐにでも変えられる部分を、グリンピースは突いたのです。

 そして4月15日のネスレの株主総会をも意識していたのではないかと思えます。ネスレの経営層が、株主総会できちんと回答しなければいけないことを見越して、グズグズとしている時間を与えないようにキャンペーンのタイミングを設定したいのではないでしょうか。

 つまり、どういう時に、どういう行動を促せば企業が反応せざるを得ないか、そのことをきちんと計算した上で戦略的にキャンペーンをしかけたであろうということです。もちろん、どのようにアピールすれば消費者が反応するかも、きちんと計算しているはずです。

 さらにはこのように成功しやすいキャンペーンを行い、見事にそれを成功させることで、グリンピースは自分たちの存在感や影響力をアピールすることにも成功したと言えます。世界中の注目を集めて、手堅い勝負を仕掛けたのです。

 今回のキャンペーンではグリンピースの手腕の鮮やかさが目立ちましたが、実はこれはWWFの成功でもあるのです。ネスレが2015年までに100%の切り替えることを約束したCSPOは、WWFがユニリーバなどと始めたRSPO(持続可能なパームオイルの円卓会議)が作った規格です。

 既にユニリーバなど世界の19社が2015年までにCSPOに完全に切り替えることを宣言していますが、今回ネスレが20番目の企業となったわけです。RSPOというフレームワークを作ることにより、WWFは世界の先進的企業を次々に変えることに成功しているのです。

 このように、海外のNGOは非常に戦略的です。そして、企業にも、社会にも、大きな影響力を持っています。この点は日本とは随分と事情が異なります。日本の企業はそのことを見落としてはいけないでしょう。

 これまでのところ、日本の消費者は欧州の消費者のように熱帯林の破壊や生物多様性の問題には反応して来ませんでした。消費者を動かすような、戦略的なNGOもあまり存在していないのかもしれません。しかし、今年は生物多様性条約のCOP10があります。世界の目が日本に注目するのです。そこで、海外のNGOが日本の企業に注目し、働きかける可能性は十分にあるでしょう。日本企業を動かす絶好のチャンスだからです。

 日本ではNGOというと、企業や行政などに比べて、まだまだ発言権がないように思います。中には、「NGOの言うことなんて」まったく取り合おうとしない企業の方や、「NGOは何を言うかわからない」と変に避ける方も見かけます。しかし、企業とは少し視点は違うかもしれませんが、専門性を持ちながら、現実的なソリューションを考え、提言し、実行できるNGOも、たくさん存在します。そういうNGOを見下すのはとんでもないことですし、第一、企業にとってももったいないことです。むしろ、同じ課題に取り組むにあたって、自分たちとは異なる視点を提供してくれる存在としてNGOを活用することこそ、これからの企業にとって必要なことだと思います。

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2010年05月14日

日本の状況は?

 昨日ご紹介したGBO3は、各国のナショナルレポートも含んだものになっていますが、日本のレポート「生物多様性総合評価」(JBO)の主な結論は、以下の通りです。
1. 人間活動にともなうわが国の生物多様性の損失は全ての生態系に及んでおり、全体 的にみれば損失は今も続いている。

2. 特に、陸水生態系、沿岸・海洋生態系、島嶼(とうしょ)生態系における生物多様性の損失が大きく、現在も損失が続く傾向にある。

3. 損失の要因としては、「第1の危機(開発・改変、直接的利用、水質汚濁)」、とりわけ開発・改変の影響力が最も大きいが、現在、新たな 損失が生じる速度はやや緩和されている。「第2の危機(里地里山等の利用・管理の縮小)」は、現在なお増大している。また、近年、「第3の危機(外来種、 化学物質)」のうち外来種の影響は顕著である。「地球温暖化の危機(地球温暖化による生物への影響)」は、特に一部の脆弱な生態系で懸念される。これらに 対して様々な対策が進められ、一定の効果を上げてきたと考えられるが、間接的な要因として作用しているわが国の社会経済の大きな変化の前には、必ずしも十 分といえる効果を発揮できてはいない。

4. 現在、我々が享受している物質的に豊かで便利な国民生活は、過去50年の国内の生物多様性の損失と国外からの生態系サービスの供給の上 に成り立ってきた。2010年以降も、過去の開発・改変による影響が継続すること(第1の危機)、里地里山などの利用・管理の縮小が深刻さを増していくこ と(第2の危機)、一部の外来種の定着・拡大が進むこと(第3の危機)、気温の上昇等が一層進むこと(地球温暖化の危機)などが、さらなる損失を生じさせ ると予想され、間接的な要因も考慮した対応が求められる。そのためには地域レベルの合意形成が重要である。

5. 陸水生態系、島嶼生態系、沿岸生態系における生物多様性の損失の一部は、今後、不可逆な変化を起こすなど重大な損失に発展するおそれが ある。
出典:「生物多様性総合評価の結果等について」(環境省 生物多様性センター)
 
地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)の概要(和文)」(PDF)も含め、「生物多様性総合評価の結果等について」のページからダウンロードできます。

《参考リンク》
■「生物多様性総合評価の結果等について(お知らせ)」(環境省)

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2010年05月13日

目標達成されず

 今年2010年が国際生物多様性年であるのは、いわゆる「2010年目標」の年であり、地球の生物多様性の現状について確認する節目ということもあります。そのレビューが、現在ナイロビで開催されているSBSTTA(生物多様性条約科学技術助言補助機関会合)で行われています。また、そこには、生物多様性条約(CBD)事務局とUNEP-WCMC(国連環境計画-世界自然保全モニタリングセンター)によって作成されたGlobal Biodiversity Outlook 3(GBO3、地球規模生物多様性概況第3版)が提出されています。

 GBO3はCBDの以下のページから全文がダウンロードできます。
■"Global Biodiversity Outlook 3"(CBD)

 報告書「地球規模生物多様性概況第3版」によると、生息地の改変、乱開発、汚染、外来種の侵入、気候変動などで生物多様性が損なわれた。脊椎動物(魚 類・両生類・爬虫(はちゅう)類・鳥類・哺乳(ほにゅう)類)の個体数は70〜06年に平均で31%減少し、特に熱帯に生息する動物は59%減った。生息 地が耕作地や牧草地に転換するため破壊されたことが大きい。両生類は42%の種で個体数が減少し、最も絶滅の危機に直面しているほか、植物の約4分の1は 絶滅危惧(きぐ)種と考えられる。

 また、地球温暖化に伴う海の酸性化や海水温の上昇など複合的な原因で熱帯サンゴ礁の生態系破壊が進むと、何億人もの生活や食が脅かされると予測した。

 報告書は、生物多様性は過去1万年にわたり人類の生活を支えてきたが、今後もその恩恵を受けられるかどうかは、今後10〜20年の取り組みにかかってい ると指摘。温暖化対策との連携や生物多様性保全を政策の中心に据えるよう各国に働きかけるなど、有効な対策を取らないと、二度と多様性を回復させることは できない、と警告した。
出典:「<国連報告書>脊椎動物、70年から3割減少 熱帯では6割」(毎日新聞、2010年5月10日)

 そして、2010年目標はというと... こちらは先に2010 BIP(Biodiveristy Indicator Partnership)がサイエンス誌に発表した論文の中でも既に「『2010年までに生物多様性の損失速度を著しく減少させる』という目標は達成されていない」とされています。


 COP10では、この次の長期目標であるポスト2010年目標が決められることになっていますが、どのような目標が定められるにしろ、今の状況のままただ目標だけ定めても、画に描いた餅に過ぎず、その間に状況はどんどん悪化します。

 これは動物や植物の問題ではなく、私たち人間の問題であるということに気付かなければなりません。もちろん、ビジネスもです。生物多様性なしに、人間の生活も、ビジネスもあり得ないのですから。

 そして、今の状況をどう好転させるか、その「いかに」という部分を真剣に議論して、行動に移さなければ、次の目標年にはもっと悲惨なことになってしまうでしょう。

 「何を」目標にするかだけでなく、「いかに」それを達成するか。それが一番重要な部分です。

 私たちがそのことに気付くかどうか。それが今、試されています。

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2010年03月31日

熱帯雨林を破壊するチョコレート!?

 熱帯林を伐り拓いたプランテーションで作られたパームオイルが持つ様々な問題は、サスラボでも何度か取り上げて来ました。そうした問題に対する一つの回答として、RSPO(持続可能なパームオイルの円卓会議)という集まりも作られ、環境や地域社会に対する影響を最小限に留めようという努力も重ねられてきました。

 例えば、ユニリーバはRSPOを立ち上げ、リードしてきた組織の一つで、RSPOの認定パームオイル(CSPO)が2008年に登場すると、いち早くそれを採用し、2015年までにすべての原料をCSPOに切り替えることを宣言しています。そのことをむしろ競争力にしようとしているのです。

 しかし実際にはまだ市場にはCSPOは少なく、また使用されているものも少ないと言われています。実際、日本企業はおそらくまだ一社も商品化していません。
《参考リンク》
■「生物多様性を守るパームオイルの利用はわずか1% 〜WWF、企業に需要を喚起〜」(WWF)

 そんな中、ネスレグループの人気チョコレート、キットカットは原料にきわめて問題が多いとされるインドネシアのシナール・マス(Sinar Mas)社のパームオイルを使用していることがわかり、グリーンピースなどの環境保護団体から強い非難を受けています(ユニリーバやクラフトは、既にシナール・マス社との取引を停止しています)。

 グリーンピースでは以下のかなりショッキングな映像も使いながら、ネスレに対して原料の切り替えを訴えるアクションを行っています。(このビデオ、本当にかなりショッキングです。そういうのが苦手な方は決して見ないでください)

Have a break? from Greenpeace UK on Vimeo.

 私たちの生活が、あるいは世界的な「優良」(少なくとも業績的には)企業が、熱帯雨林や生物多様性にどのような影響を与えているのか。また、そうした問題に対して国際NGOがどのようなキャンペーンを行い、国際世論がどのように反応するのか。COP10を前に、日本企業はよく見ておいた方がいいのではないでしょうか。

 たとえ悪意がなく、単なる無知だったとしても(どうやらネスレはそうではなさそうですが)、こうした激しいせめぎ合いが、今年後半は日本企業との間で起きないとも限らないからです。

 国際会議の舞台になるということは、そういう意味もあるのです。

<2010/03/31追記>
 昨日の記事では、肝心のグリンピースのキャンペーンサイトのURLを掲載するのを忘れていました。ゴメンナサイ。ご興味のある方は、以下のリンクをご覧ください。
■「キット、熱帯雨林もブレイクしたい」(グリーンピース)
■「熱帯雨林にブレイクを! ネスレ本社にお願いしよう」(グリーンピース)

 昨日の記事に掲載した映像は、呼びかけ開始後3週間にして世界で90万回以上視聴され、また12万通以上のメッセージがネスレ本社に届いているそうです。ツイッターなどで世界中にまたたく広まったこの動きを、The Wall Street Journalも大きく取り上げています。
■"Nestlé Takes a Beating on Social-Media Sites"(WSJ、2010年3月29日)

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2010年03月30日

日本の森が危ない!

 NIKKEI NETに連載中の「経済を変える生物多様性」で、今月はPES(生態系サービスへの支払い)制度を日本に適用できるかというテーマを扱うのですが(今週中には公開予定です)、人手の足りない里山や山地の維持管理のためにPESの考え方を応用できるのではないかということを書いていたら... 本当に早く手をつけないと、日本の森が危ないというニュースが飛び込んで来ました。
《参考リンク》
■「経済を変える生物多様性 第3回『自然はタダではない〜PESとは何か?』

 正確に言えば、何か出来事が起きたということではなく、報告書が発表されたのです。東京財団が発行した「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点」がそれです。

 過疎で人手不足のため、耕作放棄や植林放棄が各地で進んでいますが、それに乗じて、外国資本がその森林を購入するケースが増えているのです。その背景にあるのは、今後世界的に顕在化するであろう水不足。言うまでもなく、森林は水源涵養地として重要な機能を持つのですが、私たち日本人が生態系と生物多様性の真価に気付かないうちに、いつしかこの貴重な国土資源が私たちの手から奪われてしまう。このままではそんな事態に成りかねないという衝撃の報告書です。
 埼玉や山梨、長野、岡山県など全国各地の水源に近い山林について、中国な どの外国資本が買収の打診をしてきていることが、東京財団がまとめた「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点」と題した調査報告書で明らかになった。類似した事例は昨年、三重県大台町、長野県天竜村でも確認され、林野庁が調査に乗り出す事態にもなった。
(略)
 報告書によると、ほとんどが森林で占められる5ヘクタール以上の土地取引は、平成20年の統計 で、10年前に比べ面積で倍以上、件数で1・5倍の増。また、具体的な事例を並べたうえで、山林買収は事実関係の把握が困難とも指摘した。
  背景として、世界の水需給の逼迫(ひつぱく)が予測され、日本の「水」が狙われている可能性に言及。特に中国の水需要が2004年までの7年間で4倍以上伸びており、日本から水を調達するために買収に触手を伸ばしている可能性を指摘している。
(略)
  報告書では、日本の土地制度が諸外国に比べて極めて強いとも指摘。いったん外国資本に所有されると、それを手放させることが難しいため、事前の実態把握と 事前届け出など諸規制を提言している。
出典:「日本の森と水、むさぼる外資 埼玉や山梨でも山林買収を打診」(MSN産経ニュース)

 報告書全文は、以下のリンクからダウンロードできます。
■「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点〜日本の水源林の危機 II 〜」(東京財団)

 サブタイトルからもお分かりのように、この報告書はシリーズ第二弾なのですが、最初の報告書は以下のリンクからダウンロードできます。
■「日本の水源林の危機 〜グローバル資本の参入から『森と水の循環』を守るには〜」(東京財団)

 森は水を提供してくれるだけでなく、これからの社会を支える資源と機能の宝庫です。その再評価と保全を今すぐ始めないと大変なことになってしまいそうです。

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2010年03月24日

帰京しました

 先日ご紹介したバルジャック村以来、移動が続いていたのですが、ようやく東京に戻って来ました。

 バルジャック村を訪問した翌日には、モンペリエ→パリ→ロンドン→ケンブリッジと移動し、その後火・水・木はケンブリッジでBBOP(後述)のアドバイザリーグループの会合に出席。
 木曜日の夜にケンブリッジからヒースローに移動。金曜の朝にヒースローを発ち、チューリッヒ経由で成田に向かい、土曜日の朝に到着。一旦自宅に戻った後、夕方には名古屋へ。
 日曜日は成田でCOP10のプレ・コンファレンスに出て、夜遅く帰京。
 というわけで、月曜日にようやくほっと一息、でした。

 ケンブリッジで三日間会合をしたのは、BBOPという生物多様性オフセットについての国際的な基準を作っているグループです。既に「原則」は出来ており、COP10に向けて「基準」や「指標」を作り込む議論を行いました。今回はNGOやコンサルタントの方が多かったので、議論というか要求レベルが非常に高くて正直ちょっとビックリしました。自主的な取り組みのためなのに、そんな厳密な基準を作っちゃって(まだ決まったわけではないのですが)、本当に企業は付いてくるの? そんな疑問も頭を横切りましたが、議論はどんどんエスカレートしちゃいます(^^;)

 今回は事業会社からの参加者は少なかったのですが、マダガスカルでニッケル鉱山の開発をしているAmbatovy社の担当マネージャーなど数名が、同社のプレゼンテーションも兼ねて参加していました。彼らもBBOPの基準に準拠する形でオフセットを行っているのですが、こうした議論にも平然としているのが、こちらにとっては逆に驚きでした。やはり国際的な相場はかなり高くなっているのかもしれません。

 一方名古屋のCOP10プレ・コンファレンスは科学者の集まりで、これもまたBBOPとはまったく別の雰囲気です。21日は午前中は生物多様性版IPCCとも言うべきIPBESの設立に向けての「科学と政策の対話」、午後は2020年目標のCBD事務局案に対する科学者からの提言でした。
 午前中は田島環境副大臣が参加しての対話で、座長としてはやや緊張しましたが(笑)、副大臣が積極的にご発言くださったのでとても助かりました。今年中になんとかIPBESは動きそうかなという印象です。
 午後は研究者の方々らしいプレゼンテーションでしたが、聴衆に企業人や一般の方が少なかったのはちょっと残念です。せっかくの対話と交流の機会だったのですが...

 生物多様性の中にも、いろいろな「社会」があるのですねぇ。

 こんなわけで、この10日間ほどはちょっと「国際的」な仕事が続きましたが、これからしばらくはまた国内の地道な仕事に戻ります。

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2010年02月28日

偽りの楽園

 前回も書いたように、今週の前半はインドネシアのバリ島でした。生物多様性のGDM(Green Development Mechanism)に関する会合です。自然も文化も多様なバリは、まさにこうした会合の舞台にうってつけ...という気がするかもしれませんが、実際にはそう単純ではなくなっています。

 まず今回の会合が行われたのは、バリの中のヌサドゥアと呼ばれる地区にあるリゾートホテル。2007年末に気候変動枠組条約会議のCOP13が開催された場所として記憶されている方も多いかもしれませんが、インドネシア政府が外国人観光客用に開発した特別地域で、がっちりとした門と高い塀で外から隔離された場所なのです。住宅の場合にはこういうのを"gated community"と言いますが、さしずめこれは"gated resort community"でしょうか。

 トランクはもちろん、車の下側もビデオカメラでしっかりと監視する検問ゲートから先は、用のない人は入ることは出来ません。私たちのような外国人はまったく問題ありませんが、現地の方々は、リゾートで働いているとか、そういう理由がなければ入れないのです。安全と静寂を守るためではあるのですが、ちょっとなんだかな、です。(もちろん他の場所でも、高級リゾートは、たいてい自前のゲートを持ってはいますが、ここは地区全体がそうなのです)

 そして中に入れば、それまでの雑然としたインドネシアらしい景色とはうって変わり、手入れの行き届いた緑の植栽の中にきれいな車道だけが続きます。生活臭はまったくなく、ゴルフ場の中のような雰囲気です。

 さらに、各リゾートに入るには、またリゾートの検問。もちろんその中に入れば、24時間安全な空間!(笑) ホテルと無関係の人はまず入って来ないわけですから...

 で、リゾートの中ですが、こちらも南国らしく、ひたすら緑に溢れています。今回泊まったところは、部屋が広いのはいいのですが、建物はマンション風で、個人的にはあまり魅力は感じませんが、それでもまぁ快適です。広いベランダに出れば、緑の景色を長めながら、ソファで寛いだりできます。あ、そんな時間は残念ながらありませんでしたが...(^^;)

 レストランはプールサイドにあって、外からの光と気温が、熱帯にいることを実感させてくれます。Yシャツと長ズボンより、ポロシャツに短パンでいるのが、圧倒的に自然なシチュエーションです。ただ、会議室の中は例によって冷房がよーく効いているので、当然Yシャツと長ズボン、そして僕は上着も持ち込みです(^^;)

 で、この辺まではまぁいいのです。ジトッと蒸し暑い空気と、刺すような陽の光は、大好きですから。個人的には、寒いのより、暑い方が圧倒的に好きなのです。ところが今回あれっと思ったのは... これだけ緑が多いのに、花も咲いているのに、鳥の声や姿をまった見かけないのです。正確には、一度だけハトの仲間を見かけましたが、それ以外にはほとんど見ませんでした。これはかなり異常なことです。

 そういえば虫もまったく見かけませんでした。一度だけ、蚊がブーンと飛んで来ましたが、それも三泊の間に一度だけです。これって、変じゃないですか?

 とういことは、これはかなり徹底的にpest control、つまり「害虫駆除」をしているということです。滞在中、緑地の下草を植え替える作業をしているところを見かけましたが、もしかしたら植物もしょっちゅう入れ換えないと続かないのかもしれません。

 このホテルチェーンは環境や社会問題について結構熱心なところなのですが、「生物多様性」についてはあまり関心がないのか、お客様商売である以上、やはり害虫管理は徹底せざるを得ないんでしょうかねぇ...

 そんなことを考えていると、たしかに快適ではあるけれど、やはりこれは人工的に作り上げられた「偽りの楽園」なのだなぁと感ぜずにはいられませんでした。

 たしかにまったく管理をしなければ、熱帯では虫は大発生するし、それを追いかけて部屋の内外をヤモリはかけずり廻るし... 都会から来たお客さんからはクレーム続出しそうですらね。都会の常識を持つ人間と、生きものの共存は、なかなか難しそうです。

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2010年02月18日

世界のCEO27%の認識

 少し前に世界経済フォーラム(World Economic Forum)から、"Global Risk Report 2010"が発表されました。その中で新しいリスクとして、生物多様性喪失のリスクが上げられています。このリスクは被害額は100億ドル強、出現確率は10%弱と評価されています。まだちょっと過小評価かなという気もしますが...

 今年は特に、生物多様性喪失がビジネスに与える影響について"Biodiversity and Business Risk"という独立したレポートも発行されています。

 この中で注目したいのは、生物多様性リスクが食料などに影響を与えるのはもちろん、様々な経済、環境、社会リスクとリンクしていることを示したのが一つ。

 そして、世界のビジネスリーダー(CEO)の27%が、自分たちのビジネスの成長にとって脅威であると認識していることです。この割合はかなり地域差があり、もっとも低かったのは中央・東ヨーロッパの11%、それに続く北米も14%なのですが、ラテンアメリカでは53%、アフリカでは45%ものCEOが脅威と感じていることです。それだけ速い速度で自然が失われ、影響が出てきているということでしょう。

 西ヨーロッパも18%と案外低いのに比べ、アジア大平洋は34%とかなり高くなっています。これは東南アジアあたりの影響なんでしょうか。

 いずれにしろ、世界のビジネスリーダーも、生物多様性に注目しはじめたということを如実に語る結果で、非常に興味深いと思います。

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2010年02月13日

それって、どのCOP?

 前回に引き続き、生物多様性に関する基礎知識です。

 ご存じのように今年は生物多様性条約のCOP10があります。という話をすると、「え、この前はCOP15がありましたよね!?」という声を聞くことがあります。

 はい、確かに昨年の12月には気候変動枠組み条約(UNFCCC)の第15回締約国会議(COP15)がありました。そして今年の10月にあるのは生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)があるのです。

 そうなんです、COPとは条約の「締約国会議(Conference of the Parties)」という意味なので、それぞれの条約についてCOPがあるのです。ですから、生物多様性条約のCOP10の場合には、他のものと混乱しないようにCBD-COP10と書くこともあります。CBDは生物多様性条約の英名、Convention of Biological Diversityの略称です。(ちなみにUNFCCCのCOP10は、2004年にブエノスアイレスで開かれています)

 もう一つ、似ていてよくわからないというのがMOPです。こちらはMeeting of the Partiesの略で、議定書の締約国の会合のことです。議定書(protocol)というのは、既存の条約と密接な関係があって、それを補完する性格の約束のことをいいます(厳密にはそう決まっているわけではないのですが、そのように使われることが多いようです)。

 つまり、メインの条約(Convention)の締約国会議がCOPで、それに付随する議定書の締約国の会合がMOPというわけです。

 UNFCCCに付随する議定書としては、お馴染の京都議定書がありますし、生物多様性条約にもカルタヘナ議定書という遺伝子組換え生物についての議定書があります。どちらの条約でも、COPがMOPを兼ねることになっており、そのことを明示するためにCOP/MOPと書かれることがあるのです。

 ということで、今年COP10と言えば、おそらくそれはCBD-COP10のことです。どうぞお間違えなく!

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2010年02月12日

保護と保全は違うんです

 昨日、「明日(つまり今日ですが)は珍しくスケジュールが空いているなぁ」と思ったら、今日は休日なのでした(^^;) そんなわけで今日は静かなオフィスで仕事をしていましたが(笑)、最近はCOP10が近づいて来たためか、よくメディアの方から取材を受けるのです。

 生物多様性とは今までまったく関係がなかったであろう方が取材にいらっしゃることも多いのですが、そんな場合、やはり誤解というか、基本的なところを勘違いしている場合も多いようです。

 よくあるのが、「生物多様性と言えば自然保護の問題ですよね」というパターン。もちろんそういう側面もあります。絶滅が心配される動植物や、その場所にしかいない生きものを守るために、「保護」が必要な場合もあります。

 「ただ、特に企業がいま考えなければいけないのは、そういう自然「保護」ではなくて、生物多様性の「保全」の方です。保護と保全って違うんですよ」と言うと、たいていの方がキョトンとした表情をなさいます。

 「保護」というのは、基本的にまったく手をつけないこと。自然があるがままの状態にあるように、人為的な影響を徹底的に避けることで実現されます。

 一方「保全」の方は、ある程度人間が利用することを許しながら、長い目で見て現状が維持されることを指します。持続可能な範囲であれば、生態系を利用しながら保全するということはあり得ますし、また自然が回復したり復元するよう、人間が手を加えて管理するということもあり得ます。

 もちろん「保護」と「保全」はどちらがいいとか、優れているということではありません。保護の方が厳格だから、保全より常に良いというわけではないのです。そもそも、もしすべての生物や生態系を保護しなければいけないとしたら、私たちの日常生活すら成り立たなくなってしまいます。

 というわけで、いま企業が主に求められているのは生物多様性の保全の方なのです。一切手をつけずに「保護」する必要はないけれど、その生物や生態系がこの先も存続できるように、持続可能な形で管理する。使う場合には、持続可能な範囲、つまり生物が再生する範囲で利用し、場合によってはその回復を手助けする。そういうことが求められているのです。

 生物多様性に何も配慮しないのは言語道断ですが、逆にまったく手を付けてはいけなわけでもありません。適切な範囲で使いましょうということですから、これは本来、とても合理的なことなのです。そしてそのような使い方、付き合い方をすることは、企業や人間にとってもメリットがあるのです。

 もちろん既に述べたように、絶滅危惧種や固有種などについては、厳密な保護が必要な場合もありますので、そういうときには保全では不十分であることは言うまでもありません。

 逆に、里山とか雑木林(これも里山の景観の一部ですが)の場合には、保護するというのはナンセンスであることはわかりますよね? こうした生態系は、人間の手が入ることによって維持されてきたものだからです。

 ちなみに英語では「保護」はpreservation、「保全」はconservationが対応します。生物多様性条約の目的の第一は"the conservation of biological diversity(生物学的多様性の保全)"で、第二が"the sustainable us of the components of biological diversity(生物学的多様性の構成要素の持続可能な利用)"ですので、ここでも「保全」により重きが置かれていることがわかります。もちろん保護も重要なのですが、何でもかんでも「保護」というのではなく、現実的な議論が必要だということですね。

 「保護」と「保全」、この場面ではどちらの言葉がより適切かなと考えながら、上手に使い分けてみてくださいね。

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2010年01月30日

ボンでの議論

 昨日で三日間の会合が終わりました。毎日朝から夕方までワークショップ、その後も参加者の皆さんと食事に行ったりして、ホテルに戻るとぐったり。最低限のメールだけ処理してという日々でした。なかなかブログ書けません(^^;)

 今朝起きてみると、ボンは一面真っ白の雪景色。今も雪が待っています。昨日までは気温は低いものの、雪が積もっているという感じではなかったのですが... やはり降るときには降るんですね。今日はこれから日本に戻るだけなので、車窓からこの雪景色を楽しむことにします。

 さて、今回の会合ですが、生物多様性条約(CBD)の正式なプロセスにあるもので、Innovative Financial Mechanism、すなわち革新的資金メカニズムというものに関するワークショップです。生物多様性を保全するためのお金をどこから持ってくるか、あるいは経済メカニズムをどのように使うかということについて、各国から専門家が集まり、議論をしました。今回の結果は、5月にナイロビで開かれるWGRI3に勧告として送られ、そこでさらに議論されたものが10月のCOP10のアジェンダになります。

 IFMとして議論されたのは、主に以下の6つです。
1. PES (Payment for Ecosystem Managment、生態系サービスへの支払い)
2. 生物多様性オフセット
3. 環境に関する財政改革
4. グリーン商品市場
5. 国際開発金融における生物多様性
6. 気候変動ファンドにおける生物多様性

 生きものそのものではなく、お金の話が中心です。各国政府や国際機関の方が多いので、もろに財政的な話も盛り上がっていましたが、僕はやはりどう保全にそれを生かすかの方に興味があります。

 詳細な議論は以上の6つのWGに分かれて行われました。オフセットも非常に興味があったのですが、これについては他にも議論する機会はあるので、今回はグリーン商品市場のWGに参加しました。

 さまざまな商品がグリーン化されれば、あえて政府が特別な財源を用意しなくても、毎日の経済の中で生物多様性への配慮がなされるようになります。結構いい方法だと思いませんか?

 さて、それではそろそろ出発なので、続きはまた後日。

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2010年01月26日

生物多様性と経済、深まる議論

 企業というか、生物多様性と経済の関係について、さらに関心が高まっているように思います。

 先週、国連大学で開かれた、東北大学生態適応GCOE主催の生物多様性オフセットの国際シンポジウムには、定員の400名を超える申し込みがあり、一部の方には参加をお断りしなければいけない状況でした。私はパネルディスカッションのコーディネーターをしたのですが、会場から寄せられた質問票を見ると、レベルの高い、専門的な質問が多く、驚かされました。生物多様性オフセットに関する国際シンポとしては、これが国内で初めての本格的だったものと思うのですが(海外の専門家も、400名の参加者と聞いて驚いていました)、皆さん勉強なさっているようですね。

 今日はこれからドイツのボンに向かいます。明日から開催される、CBDの「革新的経済メカニズム」に関するワークショップに出席するためです。こちらも世界中から専門家が多数参加を希望し、会場の人数の都合で、参加できなかった方も多いと聞いています。どんな議論があるのか、明日以降またご紹介したいと思います。

 TEEBのレポートのドラフトも段々出来てきたようです。明日からのワークショップには関係者の方も参加なさるので、話しを聞いてこようと思います。

 来週ぐらいに公開予定のNIKKEI NETの連載「経済を変える生物多様性」には、生物多様性オフセットのことを取り上げることにしました。

 来月末には、GDM(グリーン開発メカニズム)、つまり、生物多様性を保全するための国際的な資金メカニズムについての会合がまたあります。COP10に向けて、どんどんと議論が進展しているのを感じます。

 なかなかブログを更新できなくて申し訳ありませんが、忙しいだけですので、ご心配なく。(体調をご心配いただいてメールをくださった方、ありがとうございました&ごめんなさい)。重要な事柄については、適宜ご紹介するようにしたいと思います。

 では、行ってきます!

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2010年01月19日

どうなる辺野古? 何を信じる?

 ここ数日、政治資金規制法違反関連の報道に注目しています。いえ、小沢幹事長に飛び火するかとか、そういうレベルの興味ではありません。政治資金収支報告書への「虚偽記入」だけでいきなり現職国会議員を逮捕というあり得ない特捜部のやり方を、メディアがどう報道するかに注目していたのです。

 で、結局わかったのは、やはり大手メディアは特捜部の主張をそのまま繰り返しているように思えるということです。というか、本来であればわかるはずのない取り調べ内容を「...などと話しているという。」と書いていることは、捜査内容が意図的にリークされ、しかもメディアはそれをそのまま垂れ流しているだけという構造を自ら肯定しています。
 参考までに、以下、関連リンクとしてきっこの日記です。「またまた」と思われる方も、どうぞ眉に唾をつけながらでも読んでみてください(笑)。
■「■2010/01/14 (木) チャンスを棒に振る自民党 1」(きっこの部屋)

 でも、今日の主題は政治資金の方では、ありません。もっと許せないのは、辺野古への移設問題についても、意図的なねじ曲げがメディア側、行政側にありそうだということです。
「我々は皆、(辺野古への移設案が)ベ ストだと思っている」。米国務省でのクローリー国務次官補への記者会見で、こう言い放ったのは、日経の記者。誰だ?「all of us」とは? 日経は昨年末、わざわざマイケル・グリーンを呼んで、危機感をいたずらに煽っていた。国益を損なっているのは誰?
出典:http://twitter.com/iwakamiyasumi/status/7560649091/

 さらには、昨年末、「クリントン国務長官が藤崎駐米大使を呼び出した」と日本国内で報道された問題も、とうの藤崎大使はもちろん、誤報(というか意図的?)したメディア各社もその後はダンマリで一切お咎めなし。
《参国リンク》
■「日本メディアは襟を正せ!」(すみっち通信)

 いえ、実はその前からもあるのです。例えば....
■「NHKは世論操作をやめて! 普天間・辺野古」(池田香代子ブログ)

 どうも、マスコミや一部の行政が、そろって辺野古移転を強行させようとしているようにしか思えません。ついつい、裏には何があるんだろうと考えてしまいます。

 辺野古は、沖縄の中でも辛うじて残された豊かな里海です。昨年11月には、大浦湾ではなんと36種もの新種のエビ・カニ類が、また、国内初確認の種も25種見つかったといいます。生物多様性年に、まさかそんなところを本当に埋め立ててしまうつもりなのでしょうか。
出典:「大浦湾に36新種 エビ・カニ類、県に保全働き掛けへ」(琉球新報、2009年11月25日)

 日本はCOP10で里山・里海の意義を主張するのであれば、むしろ国を挙げてこの豊かな里海を守らなければいけないはずです。それなのに、それとはまったく逆のこの動き。一体どういう構図になっているのか、理解に苦しみます。

 と思っている間に、いよいよ名護市長選も公示されました。いやぁ、どうなることやら...

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posted by あだなお。 at 01:09| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 生物多様性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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